フリーライター・桃村茶保が読む『正しさをゴリ押しする人』榎本博明著 あなたのまわりにも…

書評
『正しさをゴリ押しする人榎本博明著』榎本博明著

 現代社会の住みにくさ、ひずみにどう向き合うべきか、心理学者としての見地から世に問い続けている著者が、今回俎上(そじょう)に載せたのが「正しさをゴリ押しする人」。

 仕事の手順や態度、時間の管理など職場でおかしいと思うことがあるとムキになって相手を責める人、芸能人の私生活の行動や公務員の“規則違反”などを取り上げては執拗(しつよう)にネット攻撃する人…。

 自分が正しいと思わないものは悪、自分の味方でなければ敵だと単純にしか判別できず、短絡的に他者を攻撃してしまう。こうした、物事を多面的に見ることができない「認知的複雑性が乏しい」人が増えていると著者はいう。

 その背景として、倫理観の崩壊を疑う。儲(もう)かればよしの実業家、ルール違反をしてもバレなければいい政治家、世の中を勝ち組負け組に二分する図式的な考え方など。その中で「自分は正当に評価されていない」などの不満、「他の人は不当に恵まれている」という不公平感、輝けない自分へのいらだち、負け組から抜け出せないことへの恐怖感…。こうした感情が、ささいなきっかけで歪(ゆが)んだ正義感を振りかざす素地になっているのではないか、と。

 正直、そういう人は昔からいたが、著者が問題視するのは、その攻撃の場のひとつとなるネット空間の広がりだ。

 瞬時に社会と直結し、匿名で一方的、無差別的に自己主張、情報公開できるネット空間は日々進化し、強力な“殺傷力”さえ持つ。「正しさをゴリ押しする人」は他者の傷みに思い至らず、攻撃を繰り返し、「深刻な人権侵害」をも生み出している。

 本書は正しさをゴリ押しする「危ない人」の心理をさぐり、さまざまな具体例から現代社会のあるべきコミュニケーションを模索する。著者は「結局、物事は理屈では決着がつかない」といい、相手の「論理の背後」にあるもの、「他者の視点」を想像し、共感しようとする姿勢の必要性を強調する。本書を読めば、身の回りにいる誰かが目に浮かび、他人事(ひとごと)ではすまなくなるはず。問題意識と危機感の共有を促してくれる一冊だ。(角川新書・820円+税)