【著者は語る】柳井氏は現場を知るべき ジャーナリスト・横田増生氏「ユニクロ潜入一年」

 
ジャーナリストの横田増生氏

 ■販売現場を知るべきなのは柳井氏

 もともと、サービス残業や長時間労働といった問題を抱えた企業で、早くからこのことを指摘してきた。以前に記事を載せた出版社が名誉毀損(きそん)で訴えられたこともあった。もっとも、最高裁の上告棄却で出版社が勝訴したが。ユニクロにとって目障りな存在なのだろう。とにかく取材ができない。

 株式上場しているユニクロの親会社ファーストリテイリングの話になるが、マスコミ関係者なら、ほぼ参加できる決算発表という半ば「公」の場への出席さえも断られ続ける。それも柳井正会長兼社長の指示でだ。記事に事実誤認がないことや裁判に勝ったことも会社として認めているのに、一向に取材を拒否する態度が変わらない。かたくなに口を封じようとする姿勢に腹が立った。「それならばこちらにも考えがある」と。

 ユニクロ内は柳井氏が言うことが絶対で、まるで「柳井教」。秘密主義が徹底していて、辞めた社員も守秘義務を盾に言動を縛るところがあり、誰も何も言わない。だから、「潜入」を決意し、働いてみることにした。

 ユニクロは、国内事業に関して対売上高人件費比率を10%前後に抑えて利益を確保するのが戦略だ。限界まで人件費を削るわけだから、暇なときは「早く帰ってくれ」となる。実際、契約上は週5日勤務なのに、時期によって週3日しか働くことが許されない従業員がいた。生活がかかっていることを全く考えてくれない。

 逆に、人手が足りなくなると、今いる人材にLINE(ライン)で執拗(しつよう)に出勤要請を繰り返す。人数を増やすわけではないので、本当にへとへとになる。超大型店舗のビックロ(東京都新宿区)でも働いたが、レジ打ちの際は腕時計を見ようと目をそらすこともできないくらい忙しい。時間はお客さまに渡すレシートに印字された時刻を見て確認していた。

 こんな販売現場を知るべきなのは、やはり柳井氏だと思う。いっそのこと潜入してみてはどうか。それが、ユニクロにとっての「働き方改革」の第一歩になるかもしれない。(1620円、文藝春秋)

【プロフィル】横田増生

 よこた・ますお 1965年、福岡県生まれ。関西学院大学卒業後、米アイオワ大学で修士号取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め、99年からフリーに。著書に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(朝日文庫)、『評伝 ナンシー関「心に一人のナンシーを」』(同)、『中学受験』(岩波新書)、『ユニクロ帝国の光と影』(文春文庫)、『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(小学館)など。