【産経女子特区】産後の女性社員が恐れるマミートラック 出口はどこに?

 
産後の女性社員が恐れるマミートラック出口はどこに?

 出産後、子育てと仕事の両立を目指す女性が恐れる「マミートラック」。子育て優先の働き方により「第一線の仕事ができなくなった」「自分は会社のお荷物かも」と意欲と自信を失うケースは少なくない。企業は中核で活躍する女性管理職の育成を急ぐが、マミートラックを走る働き手には、その掛け声はむなしく響く。“ママ専用レーン”に入ることなく経験を積み、キャリアの階段を上ることはできないだろうか。もしくは、一度入ったレーンから脱出し、第一線に戻ることはできないだろうか。一歩を踏み出すママ社員が増えれば、管理職候補の裾野も広がる。産経新聞社内の有志の集まり【産経女子特区】のメンバーが、マミートラックをめぐるママ社員たちのホンネに迫った。

マミトラとは

 マミートラックとは仕事と子育ての両立はできるものの、昇進・昇格とは縁遠いキャリアコースのこと。

 経験を積むことでキャリアの階段を上っていくが、育児休業で昇進の機会を失ったり、時短などの制限勤務により

軽微な仕事ばかり任されたり、自ら負担の少ない補佐的な仕事を選んだりすることで、階段を上らず、地上のトラックを周回し続ける状態を指す。

 仕事と育児の両立が図りやすくなり、多様な生き方・働き方の実現につながる一方で、意欲を失い退職していくケースも少なくない。

 1980年代後半の米国で、女性のキャリアを支援する非営利団体が、女性の働き方を「キャリア優先」と「キャリア+家族」に分け、

後者を望む女性に育休やワークシェアなどの制度整備を企業に提案。ジャーナリストらが、後者の働き方を「マミートラック」と呼んだのが語源とされる。

マミートラック真っ最中。妥協もやもや 不完全燃焼 

 現在、マミートラック真っ最中を自認するのが、都内大手金融機関に勤める総合職、まみさん(34歳、仮名)だ。

 「期待に応えるのが仕事の楽しさなのに、今は職場で求められている感じがしない。同僚は私をコスト(お荷物)だと思っているんじゃないかと…」と悩む。今年4月、1年3カ月間の育児休業から復帰。ため息まじりにマミートラックを走る不安を打ち明けた。

 米国の大学で金融を専攻し、11年前に就職。妊娠前には昇格も打診され、早朝から深夜まで海外市場の最新動向をにらんで働いた。

 「当時は責任のある仕事も任されるようになり、自分で仕事を動かしている充実感がありました」

 しかし、長女(1)の出産後は、保育園へのお迎えに間に合わせるため午後4時までの時短勤務を選択。朝夕の重要な会議に出られず最新の海外市場動向に追いつけなくなり、昇格も立ち消えに。育休前まで担当した業務から離れ、今は先に昇格した後輩の補助に回る。

 「後輩や同期が私が目指した第一線で活躍する姿をそばで見ながら劣等感を覚える。チームの仕事にもっと深く関わりたい、夕方の会議に出たい、とも思いますが、今は娘のお迎えが一番。そのジレンマに気持ちがもやもやします」

 いずれは時短勤務を卒業し、第一線に戻りたい気持ちもある。しかし「今の働き方を続けていて、その準備ができるかどうか…。難しいところですね」と仕事への意欲はあるのに、あきらめと不安が先立つ心情をにじませた。

マミートラック脱出成功!働き方見直し、裁量労働制で

 マミートラックからの脱出に成功した例もある。「今は、自分のペースで仕事を進められる」と話す先輩ママはどのように対処したのだろうか?

 部品メーカー勤務の技術専門職、かなさん(仮名、30代、東京都)は、4歳の長女を育てながら働く。大学院で電子工学を専攻。入社3年目に結婚し翌夏、出産した。妊娠前は「干されまいと、残業して独りでがむしゃらに取り組んだ」が、妊娠中に体調を崩し、期待された仕事を「できません」と断ることが増えた。

 そのためか、育休を経て復職後に任された仕事は技術者にとっての“片手間仕事”で完全なマミートラック。このままでは自分の成長が止まると悩み、転職先を探すこともした。

 一大決心して始めたのが、働き方の見直しだ。もともと、保育所のお迎えは夫やベビーシッターらと分担していたこともあり、時短勤務から、フルタイムに変更。一時は体力の限界まで働いたが、それでは身体も家庭も持たないと考え、今年からは実際の労働時間にかかわらず、一定の手当が支給される裁量労働制を選んだ。

 「実は裁量労働にしても、労働時間は時短のときとあまり変わらない。時短でも、必要な残業はしていたので。ただ、周囲の期待値も上がり、働き方が一変した」

 心掛けたのは、上司に成果を出してもらうこと。そのために、チームで目標を達成するにはどうしたらいいか-を徹底的に考え、やりとりする。結果、自分からさまざまな提案ができるようになった。

 「信頼されて、仕事を任されるのは、気分がいい。タフな毎日だけど、何とか働き続けています」

マミートラックを予防! 復職見据え「昇進後に出産」 

 マミートラックを防ごうという動きもある。若年人口が減少するなか、妊娠、出産を経ても意欲的に働き続けてもらうため、企業も対策を立てている。女性社員が9割を占める日本生命では、育休前、育休中、復職後に、働き方を考える3度のセミナーを開催している。昨年からは平日から土曜に開催日を変更し、夫婦で参加できるよう工夫した。10月28日に東京・丸の内で開かれた育休者向けセミナーに参加した尾下知央(ちひろ)さん(28)は、来年4月に復職予定。「マミートラックに入るのはつらい。思うような働きができなくなるのが不安で、いつ出産するかも、よく考えた」と話す。

 5年前、幹部候補生である総合職として入社。営業支援などでキャリアを重ね、課長補佐に昇進直後に産休に入った。夫は同期入社の俊介さん(28)。全社的な働き方改革によりノー残業デーなどが徹底されたことで、平日の夜も夫婦で育児を担う。俊介さんも「ばりばり働きたいが仕事だけでは、いい人生とはいえない」と協力的だ。知央さんは「復職後はできるだけ早く通常勤務に戻り、認められる仕事がしたい」と、子育てと同時に仕事でも夫婦でさらなるステップアップを目指す。

専門家からのアドバイス

 育児休業後の働き方に詳しい専門家に、マミートラック真っ最中の社員と、雇用する企業に向けて、それぞれアドバイスを聞いた。

 ◇育児中の社員は「上司に意欲PRを」 

 育休後コンサルタント、山口理栄さんの話「育休後、負荷の軽い仕事になり『もっと働ける』『もとの仕事に戻りたい』と悩む人は、仕事への意欲や意思を上司に伝えることだ。しかし家事も育児も自分だけではパンクしてしまう。パートナーや家族、専門サービスなど生活面のサポート体制を整えることが先決だ。また、上司に意欲を伝えるときは、客観的に分析し、『わがままではなく、職場がよりよく回る』と前向きな理由と姿勢を示すことが大切だ。自分だけでなく、チーム全体の成果を上げるために、周囲と仕事をどう分担するか、という気持ちを持つといい。中長期的なキャリア展望を持ち、通常勤務に戻るための準備も進めよう」

●育児中社員へのアドバイス 5カ条

・計画的・段階的に通常勤務に戻していく

・できる仕事は率先して引き受ける

・昇進・昇格の意欲を上司に伝える

・あせらない、諦めない

・育児中の「借り」は将来「返す」つもりで中長期的な展望を持つ

育児中の社員を持つ上司は「会社側の期待伝えて」

 特定社会保険労務士、新田香織さんの話「育児制度は労働者の退職を防ぐため。しかし、ただ辞めなければいいというものではなく、意欲と能力を生かすマネジメントが必要だ。時短社員が出席できるよう会議の時間を変更する、自宅から参加できるようビデオ会議に切り替えるなども一つの方法だ。また、制度を利用する社員には長期の育休や時短はキャリアの機会損失だときちんと伝え、その上で『どこまでできるか』を聞き出し、時間ではなく質が問われる仕事を割り振るなど、会社としての期待を伝えるといい。補助的な仕事に変更させるといった過剰な配慮や対応は、やる気の維持やキャリア形成につながらず、人材の損失になる」

●企業へのアドバイス5カ条

・期待を伝え、戦力となるよう育てる意識

・育児制度のメリット、デメリットを明示

・“出産後”を含めた入社時からのキャリアプラン啓発

・密なコミュニケーション

・残業をしない企業文化

 編集後記 

 マミートラックの問題は、時間の制約が職務の幅を狭め、やる気がある人ほど心が折れてしまうことと、“ママ専用レーン”を走る間、キャリア開発の視点が抜け落ちがちになることだと思う。

 子育てと働き盛りはどうしても重なる。一時的な時間の制約を前提に、スキルと経験を少しずつ積み上げていく意識と仕組みが企業と働き手の双方に広がれば、マミートラックの悩みも減るだろう。一方で、時短勤務経験者には効率よく働くスキルの蓄積もあるはずで、今注目の働き方改革にも生かせる。どんな経験からも学べることが必ずあると信じている。 (綾)

 産経女子特区とは?

 産経新聞東京本社に所属する女性記者が中心となり所属部局をこえて、さまざまなテーマを追いかけます。