がん患者の魂に耳傾け「患者さんの話は贈り物」…米国で学んだ僧侶「チャプレン」、病院で緩和ケア携わる

 
がん患者の浜田さん(右)が塗り絵を楽しむ様子を見守る稲荷山武田病院のチャプレン、笠原さん=京都市伏見区

 死と向き合うがん患者らに寄り添う宗教者「チャプレン」になるために、キリスト教の聖職者に交じって米国で学んだ僧侶が、稲荷山武田病院(京都市伏見区)で働いている。滋賀県長浜市の持専寺住職、笠原俊典さん(50)。宗教とかかわりのない一般の緩和ケア病棟で、僧侶が雇用されるのは異例だ。チームに溶け込みつつ、医療者とは違った視点で患者や家族の苦しみを拾い上げている。(小野木康雄)

 ある日、笠原さんは風景画の塗り絵を楽しむ入院患者、浜田勝利さん(49)の隣にいた。4年前にステージIIIBの肺がんと診断された浜田さんは、脊髄が腫瘍に圧迫され、歩けなくなって7月に入院。手にも忍び寄るまひに抵抗しようと、大人向けの塗り絵を始めた。

 「お坊さんと紹介されたけど、僕はお坊さんとしてみていない。取っつきやすくて、いい話し相手」。笠原さんについて、浜田さんはそう話す。

 笠原さんは、1日5~6時間も塗り絵に熱中する浜田さんの姿に心を打たれ、9月に京都市内で開かれた高齢者福祉のイベントに作品を出展。段取りを整えたり、浜田さんに付き添って会場まで出かけたりした。

 仏教の話を必ずするわけでもない。「つらさや苦しみから抜け出すための伴走者」と自らの役割を位置付ける。

 笠原さんは、真宗大谷派(本山・東本願寺、京都市下京区)の僧侶。髪をそっておらず、病院ではシャツとスラックスを着用している。宗教色を出して警戒されないための工夫だという。

 海外布教を担う開教使やヒロ東本願寺(ハワイ島)の住職として、大学卒業後の平成2年から11年まで米ハワイ州に滞在。最後の1年半の間、チャプレンの養成講座を受講した。

 「さまざまな宗教や国籍の人々と、切磋琢磨できた」。米国では、キリスト教を中心とした聖職者が病院に常駐し、「魂の痛み」に対処する。日常生活でカウンセリングを利用する文化もあるため、英語でも問題なく患者に対応できた。

 むしろ難しいと感じたのは、帰国してからだ。15年間勤めた高齢者施設は、生活相談員との兼務。慢性的な人手不足の現場では、ケアに集中できなかった。

 今年4月、稲荷山武田病院に移ったが、病院側にとっても初のチャプレン採用とあって、当初は手探りだった。土屋宣之院長(66)は「笠原さんの人柄が病院に安心感を与えてくれた」と明かした上で、こう語る。

 「緩和ケアは、患者や家族にどんな苦しみがあるかをキャッチしなければならない。笠原さんのおかげでチーム医療の幅が広がり、取りこぼしが減った」

 笠原さんが出会った患者は約20人。余命わずかと覚悟した人々は、人生で大切な何かを語り、自らの死を受容して亡くなっていったという。

 チャプレンと患者という関係を超えた人間同士の交流があったからこそ、何らかのメッセージを残してくれたのだった。

 別れはつらい。けれども尊い。語られた言葉を次の人に受け継いでいく役目もチャプレンにはあるのではないか-。笠原さんはそんな実感を込め、こう話す。「患者さんがしてくれる話は、贈り物。僕に聞く力を与えてくれる」

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 チャプレン 病院や学校など、教会以外の施設や組織で活動するキリスト教の聖職者。病院のチャプレンは、患者や家族のケアに当たる専門職としてチーム医療に参加するほか、スタッフのケアも行う。欧米には専門教育制度があるが、日本では資格になっておらず、全国に30~40人ほどしかいないとの推計もある。