65歳定年制、公務員も検討 労働力の確保模索 運用面に課題も

 

 政府が公務員の定年を段階的に65歳に延ばす検討に入った。一方、企業も少子高齢化で一段と人手不足になるのに備え、労働力の確保を模索している。定年延長や子育て社員の離職防止などさまざまだが、運用面では課題もあるようだ。

 離職防止に対応

 明治安田生命保険は昨年7月、50代後半の社員を対象に「定年延長の心構え」に関する研修会を開いた。

 「年下の上司には、リーダーという立場のつらさを理解して要望を質問の形にして助言しましょう」とアドバイスする講師の話を参加者たちは熱心に聞いていた。

 研修会に参加した八王子支社の中根玲子さん(57)は「最初は定年が延びると聞いて戸惑ったが、現在の嘱託より待遇がいい」と関心が深まった様子。

 保険業界では、太陽生命保険が既に65歳定年を導入。明治安田生命や日本生命保険も65歳に引き上げる方針だ。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、働く現役世代の15~64歳人口は2015年の7728万人から、65年には4529万人と約4割減少する。人手確保は企業にとって喫緊の課題だ。

 サントリーホールディングスは13年4月から全社員対象に65歳定年制を導入。ヤマト運輸は11年度から定年を65歳に延ばした上で、60~64歳定年も選べるようにした。

 離職防止の取り組みも広がる。伊藤忠商事は配偶者の海外転勤のため退職する社員のために再雇用に応募できる制度を設けている。

 トヨタ自動車にも、配偶者の転勤や介護で退職する社員の復職を想定して、辞める前に面談し再入社に備えて登録する制度がある。

 ホームセンター大手のDCMホールディングスは子育てのために時短勤務や残業免除が利用できる制度の子供の年齢を3歳から中学就学へ引き上げた。「日曜大工に詳しい社員の確保は一朝一夕にいかない。子育て中の人の離職防止が重要だ」(担当者)という。

 「生涯現役」の旗

 労働力不足と社会保障費の膨張に対処しようと政府も「生涯現役」の旗を振る。

 厚生年金の受給開始年齢を65歳に引き上げるのに伴い、改正高年齢者雇用安定法では希望者全員の65歳までの雇用確保を義務付けた。

 ただ企業にとっては人件費が増加するため、定年自体を延ばす動きはまだ限定的だ。

 厚生労働省の調査によると、今年6月時点で定年を廃止した企業は2.6%。65歳以上への定年延長は17.0%で、8割以上は再雇用で対応している。70歳以上まで働ける企業となると約2割にとどまる。

 高齢者雇用に関する労働政策研究・研修機構の研究では、多くの企業が「若年層が採用できず年齢構成がいびつになる」として、長期的な人事計画の課題を挙げた。「管理職だった人の扱いが難しい」という声も目立つ。

 中小企業は人手確保がさらに難しくなりそうだ。ニッセイ基礎研究所の金明中准主任研究員は「高齢者や女性、外国人が事情に応じて自由に働ける労働環境の提供が不可欠だ」と話している。