新人賞を取る、小説投稿サイトで人気となる… 多彩になってきた小説家になる方法

 
電撃小説大賞で大賞を受賞のうーぱーさん(左)と凩輪音さん

 作家になる方法が多彩になっている。新人賞を受賞すればほぼ確実にデビューできるが、小説投稿プラットフォームで評判になり出版社から声をかけられる、電子書籍を作って販売して収益を得るといった道も生まれ、そこから大人気となる作品も後を絶たない。短期間で小説を書き上げ電子出版までしてしまうイベントも登場。出版不況で売り上げこそ停滞傾向にあっても、創作したものを世に問い認めてもらえる道は、これまでにも増して広がっている。

 世界でも最大級と言われる新人賞がKADOKAWAのアスキー・メディアワークスによる電撃大賞だ。2017年に実施された第24回は、小説部門の<電撃小説大賞>だけでも長編3528作品、短編1560作品、合計5088作品が寄せられ、この中から凩輪音(こがらし・わおん)さん「ガラクタの王」、うーぱーさん「タタの魔法使い」の2作品が大賞に選ばれた。

 11月21日に開かれた贈呈式で凩さんは、「去年は最終選考で落ちたので、体面が保てました」とリベンジの受賞を喜んだ。次回作についても、「いろいろな職業の人が出てくる話を書きたい」と抱負を語った。うーぱーさんは、選考委員に名を連ねるアニメーション演出家の佐藤竜雄氏に読んでもらいたいという動機で執筆したことを明かし、今後は「誰かのきっかけになる作品を書いていきたい」と話した。

 選考委員のひとりで、「タイム・リープ あしたはきのう」で知られる高畑京一郎氏は、総評で「質が拮抗し、バリエーションが広すぎて比べることができなかった」と審査が難しいものだったことを明かした。すでにリライト作業に入った受賞作が刊行された時は、「今の大賞、奨励賞の評価が出て行くわけではない」とも話し、デビューしてからの評価が重要なことを先輩作家として諭した。

 こうした受賞作は、近くアスキー・メディアワークスから刊行されることが決まっており、狭き門ながらも作家になる登竜門として確立したものとなっている。これとは別に、最近どんどんと存在感を増しているのが、小説投稿サイトと呼ばれるインターネット上のプラットフォームだ。

 11月23日に東京都大田区の東京流通センターで開催された第25回文学フリマには、個人で同人誌などを作って小説をはじめとした創作物を販売する人たちが集まった。ここに出展していたのが、「小説家になろう」や「エブリスタ」といった小説投稿サイト。ネット上に作品を発表して広く読んでもらうことができるサービスで、人気となって出版社から声がかかり本になる作品も数多く生まれている。個人の創作者が集まる文学フリマの場で参加者、来場者に利用を呼びかけていた。

 2017年にテレビアニメーション化された犬塚惇平氏の「異世界食堂」や天酒之瓢氏の「ナイツ&マジック」は、いずれも「小説家になろう」から生まれた作品。テレビドラマ化された太田紫織さんの「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」もエブリスタで話題となって角川文庫でシリーズ化されている。

 第38回日本SF大賞の最終候補作となった柞刈湯葉氏の「横浜駅SF」は、KADOKAWAとはてなが立ち上げた小説投稿サイトのカクヨムで連載され、話題を呼んで書籍化されたもの。今や小説投稿サイトは、出版社が新人賞を行って原稿を募り、選考を経て入賞作品を書籍化する従来からの作家デビューの仕組みをしのぐ勢いで、新しい才能を世に送り出している。

 書き手を引き寄せるプラットフォームとしての機能を活用しようと、新人賞そのものをこうした小説投稿サイト経由で行うケースも増えて来た。最近ではエブリスタが、少女小説の分野で絶大な人気を誇りながら、2008年に死去した氷室冴子さんの名前が冠された氷室冴子青春文学賞に特別協力。原稿の応募窓口となり、2018年1月15日から3月15日まで特設ページでエントリーを受け付ける。ライトノベルでは老舗の新人賞で、角川スニーカー文庫が実施しているスニーカー大賞はカクヨムからの応募が可能になった。小説投稿サイトが新しい才能を世に送り出す窓口として、機能や存在感を増していく傾向が続きそうだ。

 個人が執筆した小説やマンガなどを自分で電子書籍化し、販売するセルフ・パブリッシングの動きも拡大している。2013年に「Gene Mapper -full build-」を早川書房から刊行してデビューした藤井太洋氏は、原型となる作品を2012年に電子書籍でリリースし、高い評判を得ていた。「オービタル・クラウド」で第35回日本SF大賞を受賞し、日本を代表するSF作家として知られるようになった現在も、藤井氏はセルフ・パブリッシングの振興をねらった活動に協力。特定非営利活動法人日本独立作家同盟が実施する、デジタルネットワークを活用した新しい出版の形を創出するプロジェクト「NovelJam2018」で審査委員長を務める。

 この「NovelJam」は、著者、編集者、デザイナーがチームを作って短時間のうちにゼロから小説を書き上げ、編集、校正、装丁を行った上で電子書籍プラットフォームで販売するというもの。セルフ・パブリッシングによって本を作り出すプロセスを競技化することで、世間の関心を集めることができる。

 2017年2月に第1回が実施され、「島津戦記」などの著作を持つ作家の新城カズマ氏が最優秀賞を獲得したことも話題になった。もっとも、プロだから有利という訳ではなく、電子書籍の販売数では一般からの参加者の方が多かったとのこと。ネットというフラットな環境で、内容や見栄え、プレゼンテーションの方法を工夫することで、著者の知名度だけに頼らない広がりが持てることが示された。

 第2回となる「NovelJam2018」も、2018年2月10日から12日まで開催予定で、東京都八王子にある大学セミナーハウスに集まった著者16人と編集者8人、デザイナー8人が8組に分かれ、合宿形式で創作を行い完成から発表、そして販売へと持っていく。2018年1月5日23時59分まで参加者を受け付けており、応募多数の場合は選考を経て参加者を確定する。

 「ソードアート・オンライン」「魔法科高校の劣等生」など数々のヒット作を送り出してきた編集者の三木一馬氏が講演を行い、審査員には第1回で最優秀賞を獲得した新城カズマ氏、小説家の内藤みかさんらが参加。こうしたプロのアドバイスを経ることで創作のレベルアップも図られる。執筆から出版まで時間がかかるのが通例の小説を短期間で作り上げ、勝敗まで決めてしまう展開は、他に類を見ない新しいエンターテインメントとしても楽しめそうだ。