副業解禁 労使にメリット 新たな能力向上や人手不足を解消
政府は働き方改革の一環として、これまで原則禁止されていた会社員の副業・兼業を積極的に推進する方針に転換した。能力の向上や副収入を目的に希望する人が増え、人材確保などのプラス面を考慮して容認する企業が相次いでいることが理由だ。ただ、仕事の掛け持ちに伴う長時間労働の懸念は根強く、専門家から「既存の制度では対応が不十分だ」と指摘する声も上がっている。
モデル規則を改定
「新たな知識や発想を身に付ければ、会社の技術革新にも生かすことができる」。2012年に副業を解禁したソフトウエア開発企業「サイボウズ」(東京都中央区)。人事部マネジャーの青野誠さん(33)は企業と社員の双方にメリットがあると胸を張る。
飲食店経営、週末限定の農業、カメラマン-。約2割の社員が会社とは「別の顔」を持っている。青野さん自身もその一人だ。16年秋から子育て支援事業に取り組むNPO法人フローレンスで、採用や人事のアドバイザーを務めている。
平日は会社の休憩時間などにネットを使って業務をこなし、月に1回はNPOのオフィスにも出勤する。「同じ人事でも目配りが求められる部分は違う。得意分野をさらに伸ばすことができる」とやりがいを語る。
サイボウズに今春入社予定の内定者には、大学在学中からイベント運営などを手掛ける起業家もいる。青野さんは「副業を容認したことで、意欲的で有能な人材を集めやすくなった」と話す。
厚生労働省はこれまで、労使の取り決めのひな型となる「モデル就業規則」で許可なく副業した場合は懲戒対象になると規定。事実上、禁止していた。
だが、総務省が12年に実施した調査では、副業を希望する人は10年前に比べて約1割増加。ここ数年は、ロート製薬やソフトバンクなどの大手企業でも副業を認める動きが広がりつつある。厚労省はこうした流れを受けて先月、モデル規則を改定。副業を禁じる項目を削除した上で「労働者は他の会社等の業務に従事できる」と明記し、容認に方針転換した。
長時間労働の懸念
労使の中には政府の方針転換への異論も根強い。連合は「生活費を得るため、やむを得ず副業する人もいる。いたずらに後押しすべきではない」と訴える。経団連も厚労省のヒアリングで「制度的な課題が多く、推奨するのは抵抗がある」と距離を置いた。
労使が最も懸念しているのが労働時間管理だ。労働基準法は原則1日8時間、週40時間までと定めているが、副業に関する規定はなく、仕事の掛け持ちによる長時間労働の責任の所在は曖昧だ。
厚労省は通達で「複数の会社で勤務する場合は労働時間を合算する」との解釈を示しているが、労働法制に詳しい荒井太一弁護士は「企業は副業の時間まで把握できないし、労働基準監督署もチェックしていない」と実態とのずれを指摘する。一方、労働時間が短いケースも問題がある。本業と副業の勤務がいずれも週20時間未満では、厚生年金や健康保険に加入できない。雇用保険も対象から外れるため、本業、副業の両方で失業しても給付が受けられない。
こうした複雑な課題に対応するには時間がかかるため、荒井弁護士は「副業が今すぐ主流になるとは考えにくい。広まるとしても、当面は企業から雇用されるのではなく、自らが事業主となって働く形が増えるのではないか」と予想している。
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