本家・丸の内は盛況も…あの「タニタ食堂」曲がり角? 塩分摂取の多い秋田は閉店へ

 
丸の内タニタ食堂では昼時には長蛇の列ができる。夜のメニューも紹介=昨年12月、東京都千代田区(藤沢志穂子撮影)

 「1食約500キロカロリーの健康定食」で爆発的な人気を得たタニタ食堂の運営が、曲がり角にある。秋田市の「あきたタニタ食堂」の客足が伸びず、全国10店あるフランチャイズ(FC)店で初めて、3月いっぱいでの閉店が決定した。しょっぱい味付けが好きな秋田での撤退の一方、第1号店の「丸の内タニタ食堂」(東京都千代田区)では昨年11月末、夜間帯に洋食と酒の提供を始めた。男性層にもファンを広げるためというが、タニタに何が起きているのか。

 12月末の正午過ぎ、あきたタニタ食堂では年配の女性客や親子連れ、10人前後が定食を食べていた。日替わり定食の「かぼちゃのひじきコロッケ」(750円)を選ぶ人が目立つ。副菜にヤングコーンのサラダや、ゴボウとしらたきの煮浸しがついていてヘルシーさ満載だ。食事を終えた客が「3月で終わっちゃうの、残念ね」とスタッフをねぎらっていた。

 健康計測機器メーカーのタニタ(東京都板橋区)は平成24年1月に、タニタ食堂の1号店となる丸の内タニタ食堂をオープン。本社の食堂のメニューを再現したヘルシー定食をオフィス街で提供するというコンセプトが当たり、女性のビジネスパーソンを中心に連日、長蛇の列ができる盛況となった。

 その後、東北から九州まで全国にFC店を広げ、丸の内のほか、NTT東日本関東病院タニタ食堂(東京都品川区)▽もりおかタニタ食堂(盛岡市)▽金澤タニタ食堂(石川県金沢市)▽ミリカタニタ食堂(大阪府吹田市)高井病院▽タニタ食堂(奈良県天理市)▽岡山淳風会タニタ食堂(岡山市北区)▽福岡県北九州市(北九州タニタ食堂)▽福岡薬院タニタ食堂(福岡市中央区)-を展開。あきたタニタ食堂は26年12月、市中心部の商業施設内にオープンした。

 開店当初こそ盛況で、県や秋田市とタイアップした健康セミナーなども随時、行っていた。だが、次第に客足が落ち、「想定の半分程度だった」と運営元のあきた食彩プロデュース(秋田市)の担当者は肩を落とす。「過疎化と高齢化、喫煙や飲酒、塩分摂取量の多さなど食生活で予防ができていない」(秋田大学医学部附属病院の羽渕友則院長)という県民性が背景にある。

 秋田県のホームページによると、「秋田県の食塩摂取量(成人)は全国平均より高い状況」という。そこで、国の目標の成人男性1日8グラム未満、成人女性同7グラム未満に対し、秋田県は平成34年までに県民の摂取量を同8グラムにする目標を立てている。

 「せっかく外食するなら、健康に気を使うより手の込んだものを食べたいと考える人が多いのかもしれない」と、あきたタニタ食堂の桐生晶子マネジャー。病院の食堂に移転する計画もあったが、条件面で折り合わなかったという。

 一方、本家の丸の内タニタ食堂では夜のディナー帯に、「健康志向はどこに?」と一瞬目を疑う洋食メニューと、ビールやワインなど酒の提供が始まっている。ポークカツレツ、ビーフシチュー、エビフライ、グラタンなどで価格帯は900円台から1200円台と、ランチ(750円と850円の2種類)よりやや高め。

 ただ、「カツは揚げずに焼く、脂身の少ない肉を使う、グラタンには豆乳を使うなど、ヘルシーなタニタらしさを生かす工夫をしています。通常こうした洋食なら1000-1200キロカロリーはあるでしょうが、タニタでは600-800キロカロリーに抑えています」と、タニタ広報課の冨増俊介さんは言う。

 女性中心だったオフィス街での客層を、男性にも広げるのが狙い。「ガッツリした食事をしたい方でも健康面は気になるという『健康ライト層』に訴求したい。オフィス街では男性のビジネスパーソンにもお越しいただきたい」(冨増さん)という。

 メニューのリニューアルから1カ月余り、男性客が少しずつ増えてきたが、近くの帝国劇場の舞台終演後、夕食を食べに来る女性客が多いという。「お酒はあまり出ません。単品のつまみを置いていないからでは」と冨増さん。

 丸の内タニタ食堂の夜の洋食メニューをあきたタニタ食堂でも出していたら、もしかしたらうまくいっていたかもしれない。おいしい物を食べたくても、健康が気になるのは、程度の差こそあれ万人共通ではないか。タニタでは丸の内の様子を見ながら、他の地域でも展開も検討する方針だ。

 (秋田支局長 藤澤志穂子)

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 【タニタ食堂】タニタが平成11年、社員の健康の維持・増進を目的に本社社員食堂をオープン。出版された「体脂肪計タニタの社員食堂」シリーズが爆発的なヒットになり、平成25年に映画化。さらに、レシピを忠実に再現したメニューを提供する「丸の内タニタ食堂」が一般向けにオープンした。

 1定食に付き、約200グラム前後の野菜を使用。咀嚼する回数が増えるように野菜を大きめにカットし、火を通しすぎない調理で、噛みごたえのある硬さになっている。脳が満腹と感じる時間の目安である20分間、よく噛んで食べることを推奨している。塩分量は1食約3グラム、ご飯の量は「100グラム(約160キロカロリー)」が理想という。