治療中の記憶呼び戻す“ICUダイアリー” 写真、家族からの言葉…患者の表情変わる 兵庫・尼崎の看護師ら導入進める

 
ICUダイアリーを編集する看護師の竹村慶子さん(左)と宮本真奈美さん=昨年12月、兵庫県尼崎市の県立尼崎総合医療センター

 兵庫県立尼崎総合医療センター(同県尼崎市)の看護師らが、集中治療室(ICU)に搬送された患者の療養記録や家族からのメッセージをダイアリー(日記)に記す取り組みを進めている。欧州では「ICUダイアリー」と呼ばれ普及しているが国内の病院ではまだ珍しく、鎮痛剤などの影響で抜け落ちた記憶を取り戻し、回復意欲を高めるなどの効果が期待できるという。(中井芳野)

日本ではまだ事例少なく

 ICUに入る患者は心肺停止や脳梗塞など一刻を争う状態のため、治療中の断片的な記憶しかない場合が多い。治療や回復の過程を記録したダイアリーは、読み返すことで患者の記憶を正す効果があるとされるほか、ICU退室後に発症が目立つ鬱状態や、体のだるさなどの予防にもつながると注目されている。

 海外では欧州を中心に20年ほど前から導入。だが、日本集中治療医学会によると、国内では学会に取り上げられた事例もまだ少ないという。

「本当に入院しているの?」「ママに会いたい」…患者の長女の不安

 兵庫県立尼崎総合医療センターがダイアリーを導入したきっかけは、平成28年12月に骨盤骨折による大量出血で意識不明となり、ICUに搬送された30代の女性。1カ月後に意識が回復したものの、無表情か涙を流す姿しか見せず、リハビリにも消極的だった。

 女性の長女は小学生で、規則によりICUには入室できない。「本当に入院しているの?」「ママに会いたい」と不安を口にしていた。女性を担当した看護師、竹村慶子さん(30)は「幼い子供を抱え、今後社会復帰しなければいけないのに…」と今後を案じる中、以前参加した勉強会で知ったダイアリーを思い出し、他の看護師にも呼びかけてダイアリーをつけてみることにした。

 最初のダイアリーには、女性の表情がよく分かるリハビリ中の写真を載せた。見せられた長女はダイアリーを握りしめ、放さなかったという。

 その後は、「ママ、治療よくがんばったね!」などといった長女のメッセージも添えるように。これを見た女性は、柔らかい表情に変わったという。リハビリ時間以外に自ら手を動かすなどの努力を重ねて2カ月後にICUを退室、長女との再会を果たした。

 竹村さんは「ICUでの治療を終えた親に再会したとき、以前と違う親の姿に子供が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負うことも多い。治療の様子を事前に知っていたから、再会時にも驚かず、母親の状況を理解できた」と振り返る。

目をそらしたい姿も、失った記憶を埋めようと…

 また、29年9月にくも膜下出血で入室した30代男性は回復後、意識がなかった約2週間の記憶を取り戻そうとダイアリーを読み込んでいたという。

 男性を担当した看護師、宮本真奈美さん(33)は、「医療機器に囲まれた姿から目をそらしたいのではと思うが、失った記憶を埋めようとしっかりと目を通す人が多い」と話す。

 これまで、同院で書き留めてきたダイアリーは7人分。今後は、ICUだけでなく入院期間が長い患者らにも対象を広げる方針だ。学会でも取り組みを紹介する予定で、他の病院への広がりも期待している。竹村さんは「患者の社会復帰に少しでも役立つように、今後も事例を重ねていきたい」と話した。