【IT風土記】佐賀発 ドローンやICTブイで海の異変を察知 有明海で進む次世代型ノリ養殖

 
有明海を旋回するオプティムが開発した固定翼型のドローン「オプティムホーク」。海面に見える黒い筋が養殖用のノリ網(オプティム提供)

 有明海でのノリ養殖が盛んな佐賀県で、ノリのさらなる品質向上と収量アップにつなげようと、ノリ養殖に最新のAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)技術を活用するプロジェクトが動き出した。ノリ養殖漁場の海面を撮影できるドローンや、海面の水温や比重(塩分濃度)を測定するICT(情報通信技術)ブイを活用して、ノリの生育に悪影響を与える病害や赤潮の発生を早期に検知することを目指している。

 有明海を舞う固定翼型ドローン

 佐賀県沖の有明海上空をグライダーのような固定翼型のドローンが舞う。海面に見える黒い5本の筋は養殖用のノリ網だ。ノリ養殖の区画は水平線の向こうにまで張り巡らされている。ノリ網の数は実に約30万枚。単純計算で山手線の内側の1.3倍に当たる9000ヘクタール以上もの漁場が広がっている。年間の生産枚数約20億枚、14年連続で生産枚数全国一の座を守り続けている佐賀県を象徴する風景だ。

 空中を舞う固定翼型のドローンは、AIやIoT開発を行うベンチャー大手、オプティムが開発したものだ。オプティムは佐賀県やノリ養殖漁業者で組織する佐賀県有明海漁業協同組合、佐賀大学、農林中央金庫、NTTドコモの産官学6者でAIやIoTなどの最新技術の活用を目指す協定を昨年3月に締結。ノリ養殖が本格化する昨年11月からこのドローンを飛ばし、本格的な実証実験に着手した。

 「ノリの養殖漁場はエリアが広く、管理が大変なんです。病害や赤潮もいつどこで起きるかわかりません。ドローンやAI、IoTの技術を活用することで発生を早期に発見できれば、被害を未然に防ぐこともできます。今回の取り組みでその可能性を探っているところです」とオプティムの速水一仁インダストリー事業本部サブマネージャーは話す。

 ノリの病害や赤潮の兆候を探れ

 ノリの養殖では、アカグサレ病などの深刻な病気が発生する懸念がある。アカグサレ病に感染すると、ノリの葉体に穴が開いたり、色が赤くなったりして品質低下を招く。感染力が強く、一度発生するとあっという間に周辺に拡大し大打撃を与えてしまう。2015年には生産量が半分近くまで落ち込むほどの被害があったという。品質低下につながる赤潮も毎年のように発生しており、漁業者を悩ませている。

 県のノリ養殖の研究機関である佐賀県有明水産振興センターでは養殖最盛期に定期的にパトロールを行いながらアカグサレ病や赤潮の発生を調査。漁業者も漁場を見回りながら、海の変化を観察している。同センターの荒巻裕副所長は「病気は早期に発見しないと手遅れになる。定期的に船を出して、ノリを採取し、顕微鏡で菌の有無を調べている」という。約30万枚ものノリ網が設置されている漁場全体をくまなく調べるのは至難の業だが、ドローンやICTブイを使えば、漁業者の目が届かなかったエリアや時間帯の海の変化も監視できるようになる。

 固定翼型のドローンは一般的なマルチコプター型に比べ、長時間の飛行が可能だ。上空から海面の変化を撮影できる機能があり、海面の状況を画像で把握できる。NTTドコモの協力を受けて携帯電話の通信機能を搭載し、撮影した画像のリアルタイム送信の実用性なども検証していく。

 また、NTTドコモから海水の温度と比重を測定するセンサーと通信機能を備えた「ICTブイ」の提供を受け、ブイから送られてくるデータも活用。空からの画像と海から得られるデータを蓄積し、AIを用いて分析することで、赤潮の発生エリアや病気が発生しやすい兆候などを見える化し、スマートフォンや携帯電話を通じて漁業者に情報提供する仕組みの構築を目指す。NTTドコモ九州支社の淵上豊崇ICTビジネスデザイン担当課長は「漁業者の問題解決にわれわれのICT技術が応用できるなら意義は大きい」と話す。

 水産業を魅力ある仕事に

 佐賀県有明海漁業協同組合の徳永重昭代表理事組合長と江頭忠則専務理事は「漁業者は毎日のように漁場に船を出し、水温や比重をチェックしたり、ノリ網をメンテナンスしたりしているが、労力もコストもかかる。ドローンで漁場を監視できれば船を出す回数が減り、効率的に作業ができる。最先端の技術を活用することで、若い人たちにも魅力的な仕事と思えるようになってほしい」と期待をかけている。

 オプティムはもともと2015年から佐賀県、佐賀大学と連携し、ドローンを活用した次世代型農業の実証実験に取り組んできた。ドローンで撮影した画像をAI技術で解析。害虫被害を受けている農地を測定し、害虫被害がある場所だけにピンポイントで農薬を散布することができる新たな減農薬農法を確立した。この農法による生産物はこの農法による生産物は農家の負担を減らしつつコストを削減し、付加価値を向上することで販売価格がブランド野菜と同等に設定できるなどの効果を上げている。

 今回の取り組みは農業から水産業への応用だ。オプティムにとっては新たなチャレンジとなるが、広大な海での応用は農地での病虫害の検知とは異なり、クリアしなければならない課題も少なくない。

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