首の老化は20代から始まっている!? 長時間パソコンで激増“首ヘルニア”対処法

提供:PRESIDENT Online
※画像はイメージです(Getty Images)

 加齢が引き起こす体の不調。放置していれば、取り返しのつかない事態を招くこともある。「プレジデント」(2018年1月1日号)より、9つの部位別に、名医による万全の予防策を紹介しよう。今回のテーマは「首・肩・腕」--。

 痛みやしびれは「首」以外に出る!

 「首の老化は、20代から始まっています」。首をはじめ脊椎を専門とする整形外科医の三井弘氏は開口一番そう語る。老化により、首の筋肉が衰えて頭を支える力が弱くなり、さまざまなトラブルを引き起こす。

 三井氏は40年近く患者を診てきたが、ここ十数年、首のトラブルを原因とした不調を抱えて来院する人が増えているという。その症状は、しつこい肩こりや背中の痛み、頭痛、手足のしびれ、脱力感や集中力の低下など幅広く、原因が首にあるとは思いもよらないものばかりだ。

 なかでも気を付けたいのは肩こりだ。筋肉疲労による肩こりと、首のトラブルを原因とする肩こりは全く別のもの。筋肉疲労による肩こりなら、マッサージなどで緩和することがあるが、休んだりしても治らないしつこい肩こりは、首が原因の可能性がある。首の骨の頸椎が変形して神経が圧迫されたり刺激されたりすることで肩こりを起こしているため、「頭痛、しびれ、冷え、痛みなどの神経症状を伴う場合は、首を疑ったほうがいい。すぐに整形外科を受診して」と三井氏は言う。

 首の不調は、初期は首自体に痛みなどの症状が出ることが少なく、重症化するにつれて自覚症状が変化する。初期症状の肩こりを放置すると、頭痛やめまいを引き起こす。さらに放置すると、しびれが出てくる。「手のしびれ、手に力が入りにくいなどの症状は赤信号。放っておくと、指や腕、足などに麻痺がおこり、最悪の場合は四肢痙性麻痺に至ることもある」と三井氏は警鐘を鳴らす。

 首のトラブル増加の背景にあるのは、パソコン、特にノートパソコンと、スマートフォン(スマホ)の普及だ。ノートパソコンやスマホを使うと、どうしても視線が下がりうつむいた姿勢になる。「下を向くと、前を向いているときに比べて首には5倍の力がかかる。頭の重さが10キロだとすると、50キロもの負荷がかかることになります」。

 最近特に深刻なのが、首のヘルニア患者の増加だという。「昔は椎間板ヘルニアといえば圧倒的に腰だったのが、20年ほど前から逆転し、今では9割程度が首で来院する」と三井氏は話す。

 首の骨は、頸椎と呼ばれる7つの骨からできていて、頸椎と頸椎の間には、クッションの役割をしている椎間板という軟骨がある。さらに頸椎の後ろにも、椎間関節という軟骨がある。下を向いたときの負荷がこの軟骨にかかり続けると、すり減って変形してしまう。変形した軟骨が神経に当たって痛みやしびれを起こすのが椎間板ヘルニアだ。「自分では気付いていない人が多いが、今の30代から50代のうち、8~9割の人は首のヘルニアか、ヘルニア予備軍ではないか」。

 軟骨は1度すり減ると再生しない。「骨や筋肉は鍛えることができるし、再生もするが、椎間板などの軟骨だとそうはいかない」。

 首のヘルニアの症状は、突然出る。「半数ほどは朝起きたときに突然出ます。ほかは、くしゃみ、スポーツなど、きっかけはさまざまです。痛みやしびれは、首ではなく、首を通る神経がつながっている頭の後ろ、肩甲骨、肩や背中、腕などに、左右偏って出ることが多い。首だけが痛い人は、寝違いや捻挫、筋肉痛などで済む可能性が高い」。

 すぐに気付いて整形外科に行けばよいが、首のヘルニアだと気付かず、不用意にマッサージや整体、カイロプラクティックなどで施術を受けると、患部に刺激を与えることになり、余計に症状が悪化する可能性もあるという。

 治療には、首を牽引するなどのリハビリや薬の投与などがある。手術は、下肢のしびれや麻痺を伴うなど重度の場合に限られる。そこでも一番重要なのは姿勢だと三井氏は言う。「首のヘルニアは、パソコンを長時間使う生活で起きる生活習慣病なので、日々の習慣を変える必要があります」。首だけを動かさず、振り向くときは体全体で振り向く。床のものを拾うときにもゆっくりと、体全体でしゃがむ。首を意識的に動かすのはよいが、無自覚な首の動かし方には危険が潜んでいる。

 さらば! うつむき生活

 では、どうすれば首に負担をかけない生活ができるのか。三井氏は「とにかく姿勢です」と繰り返す。重い頭や全身をバランスよく支えるためには、背骨のS字カーブを保つことが重要。首を下げず、「あごを少し突き出し、20度くらい上げる。それが首にとって一番よい姿勢です」という。

 とはいえ、ビジネスパーソンの多くは、どうしても長い時間をパソコンの前でうつむいて過ごさざるをえない。できるだけ正しい姿勢を保てるよう、机や椅子、ディスプレーの高さを調節しよう。机に手を乗せたときに、肘が90度に曲がる高さに、ディスプレーは目の高さにする。同じ姿勢でいるのもよくないので、時々トイレに行くなどして姿勢を変えよう。

 畳や床に座る和式の生活様式は、見上げたり見下ろしたりという首の動きが多くなるため、首に負担をかけやすい。そのため、座るときには、床より椅子を選ぼう。

 外出する際にも、首への負担をかけないよう心がけたい。かばんを持つ手は、いつも同じほうではなく、定期的に変えるようにする。「一番よいのはリュックタイプのもの。両肩で重さを受け止め、首への負担が軽減されます」。

 寝具も重要だ。寝た姿勢でも、あごが20度程度上がるくらいだと、無理な力がかからない。硬くて高い枕だと、寝ている間にも首に負担がかかるため、柔らかくて大きめのものがいい。低反発タイプは、頭の形に合わせてくぼみがつき、頭部が固定されて、首に不要な力がかかる可能性があるため、おすすめしないという。また、首のヘルニアの症状は、朝起きたときに突然出る人も多いが、「寝ている間に、寝がえりを打って枕から頭が落ち、首に衝撃がかかることも一因という可能性があります。予防のため、横に長い枕にするとよいですよ」。

 ▼首ヘルニアを寄せ付けないOK枕を探せ!

 OK枕

 ・大きくて柔らかめの枕:素材はパンヤや羽毛がおすすめ。

 ・横に長い枕:寝がえりを打っても頭が落ちないように、バスタオルを巻いてつくる。同じ枕を2、3個横に並べるのもいい。

 NG枕

 ・硬くて高い枕:そばがらがパンパンに詰まったようなものは避けたい。

 ・低反発タイプの枕:頭部が固定されやすく、首に不要な力がかかる可能性あり。

 ▼POINT!

 ・どこから始まる?

 20代から首の筋肉が衰え出す。頭を支える力が弱くなり、肩こり、頭痛、めまいといったトラブルを引き起こす。

 ・最悪の場合は?

 首の不調に由来する手のしびれを放置すると、指や腕、足などに麻痺がおこり、四肢痙性麻痺に至ることも。

 ・予防・改善策は?

 あごを少し突き出し、20度くらいに上げた首によい姿勢をとる。机、椅子の高さや枕などを調整しよう。

 三井 弘

 三井弘整形外科・リウマチクリニック院長

 医学博士。東京大学医学部卒。専門分野は脊椎、関節(人工関節)。三井式頸椎手術器具を開発。著書に『体の不調は「首こり」から治す、が正しい』など多数。

 (ライター 大井 明子 撮影=向井 渉)