「テレワーク」導入で一挙両得…社員は仕事と育児・介護を両立、企業側は経費削減

 
東京にいる同僚とノートパソコンでコミュニケーションを取る沢麻紀さん=大阪府枚方市

 働き方への関心が高まる中で、オフィスに行かず会社から離れた場所で仕事をする「テレワーク」を全社員に導入した企業が注目を集めている。仕事と介護・子育てとの両立だけでなく、近年はコスト削減や生産性を上げる手段として有効だとの見方もあり、導入例は少しずつ増加。交通機関の混雑緩和などへの効果も見込まれ、政府は、多くの外国人が日本を訪れる2020年東京五輪・パラリンピックに向け、テレワーク導入を呼びかけている。(細田裕也)

 母親が末期がんの女性、半月を大阪で、残りを東京で過ごす 「不自由なし」

 3月中旬の平日、東京のソフトウエア開発会社「シックス・アパート」でマーケティングを担当する沢麻紀さん(42)は、大阪府枚方(ひらかた)市の実家でノートパソコンに向き合っていた。企業向け対話アプリで東京にいる社員とやりとりしたり、資料を確認したり。実家での勤務も「特に不都合はない」と話す。

 現在、月の半分を枚方の実家で、残り半分を会社のある東京で過ごしている。きっかけは昨年5月、母親(74)に末期の胆嚢(たんのう)がんが判明したことだ。母親のサポートが不可欠になったが、同居の父親(82)は高齢で、「どうしても母親が心配だった」といい、月に2回程度の通院に合わせ、帰阪している。

 勤務時間は、それぞれの裁量に任されており、オンラインで記録。導入前後で日々の勤務時間に、ほぼ差はないという。

 生産性アップ 遠隔地に住む優秀な社員の採用にも成功

 シックス・アパートは平成23年の東日本大震災を機に節電のため夏季の水曜日のみテレワークを実施。28年夏からは制度をさらに拡大し、全社員が毎日出社する必要をなくした。

 約30人の社員は、大半が月1~3日しか出社せず、3分の1ほどの広さのオフィスに引っ越し、賃料や光熱費を大幅に削減したほか社員の通勤手当なども不要に。半年間で約4千万円の経費削減につながった。

 こうした効果に加え「メリハリのある働き方を提供することで仕事の効率や生産性が上がった」(同社の担当者)。仕事と介護などとの両立を目指す社員を後押しでき、遠隔地に住む優秀な社員の採用にも成功したという。

 このようなテレワークの例は全国でも珍しいが、沢さんは「普通の働き方では何かを犠牲にしなければ、母親をサポートできなかった。仕事の量も質も今までと変えず、母親を支えていきたい」と話している。

 東京五輪中の渋滞緩和期待

 交通混雑が予想される2020年の東京五輪・パラリンピックへの対策を念頭に、政府はテレワーク導入を呼びかけているが、現状の実施企業は大企業が中心で、人材・設備に余裕が乏しい中小企業での導入は少ないのが現状だ。

 総務省は2020年までの毎年、五輪の開会式が予定されている7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、企業などによる一斉の実施を促している。初回となる昨年は900団体以上の約6万人が参加した。総務省は今夏も同様のテレワークを呼びかけ、10万人以上の参加を目指す。

 平成29年版の情報通信白書によると、テレワークの導入企業は24年に11・5%だったが、28年には13・3%に増えた。長時間労働の是正や子育て・介護離職への対策として、テレワークが有効と考える企業が増えたためとみられている。

 一方、現時点でテレワーク導入は大企業が中心になっている。総務省の調査(29年)によると、従業員数301人以上の企業では20・4%が導入していたが、同20人以下では3・1%、21~50人では2・6%にとどまった。通信環境などの設備投資が負担になっているとの声もある。また在宅勤務による情報セキュリティーの確保や適正な人事評価の実施など、課題とされる点も少なくない。