日本も抗菌薬規制を強化 耐性菌対策、畜産分野でも
抗生物質(抗菌薬)が効かない薬剤耐性菌に対する危機感が世界で強まり「抗菌薬の使い過ぎを防ごう」との意識が医療現場に広がってきた。だが抗菌薬は人の治療以外の用途もあり、対策の効果を上げるには医療の外での取り組みも重要とされる。そうした中、世界保健機関(WHO)は、人の治療に重要な抗菌薬を食用家畜に使うことを大幅に抑制するよう各国に求める見解を発表した。日本でも対策が進む。
◆成長促進目的で
抗菌薬は人の病気の治療のほか、畜産・水産業や農業でも使用される。量が多いのは家畜用。病気の治療以外にも、成長促進目的で飼料に混ぜて家畜に与えられる。
動物に使われる抗菌薬の中には、人の薬と同じか、よく似た薬もある。そうした薬を使い続けて家畜の体内に耐性菌ができると、排泄(はいせつ)物の環境への放出や食品などを通じて人にも広がり、人を治療する際に抗菌薬が効きにくくなるなど、悪影響が出る可能性があることが分かってきた。
WHOによると、欧州では1990年代に家畜への抗菌薬使用の規制の動きが活発化。欧州連合(EU)は2006年、成長促進目的での使用の全面禁止に踏み切った。WHOは、人の治療に使われる約30種類を「医療上重要な抗菌薬」としてリスト化した上で、昨年11月、これらを家畜の成長促進目的には使わないよう求めるガイドライン(指針)を発表した。
◆医療に大ダメージ
この問題を担当するWHO食品安全・人畜共通感染症部長の宮城島一明医師は「新たな抗菌薬の開発は世界的に停滞しており、今ある抗菌薬を長く使う必要がある」と指摘。これ以上耐性菌がはびこると、医療への大変なダメージになるとして「少なくとも家畜の成長促進目的の使用はやめていくべきだ」と話す。
だが世界の足並みはそろっていない。EUのような規制積極派がある一方、新興国では経済成長で食肉の需要が増え、畜産での抗菌薬使用量も増加が見込まれている。特に中国、ロシア、インド、ブラジルは10年から30年までに倍増するとの推計もある。
宮城島さんは「グローバル化が進むと耐性菌も簡単に国境を越える」とし、時間がかかっても世界で共同歩調を取るべきだと強調する。
欧米ではこうした動きに注目し、家畜への抗菌薬の使用低減を積極的にアピールする食品企業も出ている。宮城島さんは「消費者が企業を選ぶきっかけになる。それで少しずつ社会をシフトさせていければ」と話す。
◆使用は慎重に
日本政府は平成28年、薬剤耐性菌に対する行動計画を策定。動物用の抗菌薬についても「慎重な使用の徹底」をうたい、家畜の耐性菌を削減する数値目標を定めた。農林水産省は、食品安全委員会が「人へのリスクなし」と評価した抗菌薬以外は、家畜の成長促進に使えないようにすると決めた。
それで新たに規制されることになったのがコリスチンだ。人の治療では、ほとんどの抗菌薬が効かない多剤耐性菌に効果があるとして最後の「切り札」ともいわれる薬。
食品安全委は昨年、家畜の成長促進にコリスチンを使うことのリスクを「中等度」と評価。農水省は成長促進の用途での使用許可取り消しを決め、今年7月から施行する。ただし獣医師が使う動物の治療の用途は引き続き認める。
安全委は、他の抗菌薬についても引き続き評価を進めている。農水省は「人の治療への悪影響を防ぐという取り組みの方向性はWHOと同じ。まずはリスク評価の結果を待ちたい」と話している。