若者支援で高齢者に新たな生きがいを 「世代間ホームシェア」が増え続けるわけ
東京近郊のある町で、大学生と高齢の男性が共同生活を送っている。21歳の三原尚人さんは大学3年生。片や自宅を提供している浅見重治さんは82歳。年齢差61歳の2人だが、親戚でも知人でもなければ、下宿生活でもない。彼らの暮らし方は、「世代間ホームシェア」と呼ばれるスタイル。いま全国各地で静かに広がっている新しい暮らし方である。
▽「若いうち」しかできない経験
学校から帰った三原さんは、毎晩、浅見さんが作る夕食を一緒に食べるのが習慣だ。食事が終わったら、食器を洗って片付けるのは三原さんの担当。その後は、テレビを見ながら雑談をするなど、思い思いの時間を過ごしている。
なぜ、この暮らし方を選んだのかを三原さんに聞いてみた。
「大学2年までは、独り暮らしだったのですが、毎月10万円以上の生活費がかかり、出費がかさんでいました。その時、テレビのニュース番組で知ったのが、世代間交流ホームシェア。大学院に進みたいと考えているので、学費を貯められるかもしれない、と応募しました」
「経済的な理由もありましたが、それ以上に60歳も年の離れた人と住むということ自体に興味があったんです。こういう経験は若いうちじゃないとできないと思ったこともあります」
一方の浅見さんは、この家の主。奥さんを亡くされた後、長らく独り暮らしをしてきた。そんな父親を心配した娘さんが勧めてくれたのが若い人と同居だった。
「若い子と住むようになって、何よりにぎやかになりました。テレビを見ていても、すぐに反応があり楽しいですね。三原くんは実の孫と同世代なんです。4人目の孫ができたと喜んでいます。性格的に遠慮がなく、気が合いますね」(浅見さん)
▽共通の趣味はカメラ
2人はカメラが共通の趣味で、古いフィルムカメラを貸し借りして、楽しんでいる様子だ。
彼らを結びつけたのが、NPO法人「リブ&リブ」という団体である。代表の石橋ふさ子さんは、30年間、国際交流の仕事に携わってきた人物。退職後、第二の人生をどう歩もうかと思案している時に、この活動を知ったという。
「ある時、知人からヨーロッパで行われている世代間ホームシェアのことを聞いたのです。今は日本でも元気なシニアが活躍していますが、当時は彼らの居場所がなく、楽しく過ごしている人は少ないと感じたんです。ですから話を聞いて、ぜひとも現地に活動の様子を見に行きたいと、すぐにヨーロッパへ飛びました」(石橋さん)
世代間ホームシェアは、1990年代にスペインのバルセロナで始まった活動である。欧米各地に広がり、数多くの成功例が生まれている。
「バルセロナで5組のペアから話を聞き、2組の住まいを見学したのですが、90歳の女性が30歳の大学院生と共同生活をしていて、本当に生き生きと楽しそうだったんです。学生は家賃の負担が軽くなり、親元から離れても安心でき、シニアの知恵や共助の精神も学ぶことができる。シニアの方は、生きがいを得て、健康寿命を伸ばしている。その姿を見て、これからの日本に必要な仕組みだと確信しました」(石橋さん)
▽お互いの相性や生活状況などを判断
帰国して、ホームシェアの事業を始めるためにNPO法人を設立。2012年に事業をスタートさせた。当初は日本には馴染まないという声も大きかった。他人を家に入れることに抵抗のある人も少なくなかったからだ。しかし、根気強く活動を行い、徐々に希望者が増えてきたという。
ホームシェアの対象となるのは首都圏の大学に通う学生。住居費はゼロだが、月々の光熱費と雑費(2万円程度)をシニアに支払う必要がある。また家を提供するシニアも首都圏で独り暮らしをしており、自立した生活を送っているなどの条件が設定されている。
ホームシェアを希望する人は、まずWEBサイトに必要事項を記入し、登録をする。その後、経験を積んだ専門のコーディネーターによる面接が行われ、シニアに対しては自宅訪問も行われる。審査を通過すれば、ここで互いの相性や生活状態などを判断の上、コーディネーターからペアの提案が行われる。そして当事者同士のミーティングを持つ。1カ月間、試験的に共同生活を行う。
その結果、続けていけると判断したら、本格的にホームシェアを始めるという流れだ。同居を始める段階で、ペアはNPOに入会し(入会金2万円)、月会費3000円を支払うことになる。
▽コーディネーターがサポート
実際の生活が始まった後も、月に1度、コーディネ-ターが訪問し、双方とじっくりと面談をする。互いに信頼関係を築き、どんなことでも話し合えるようになるためである。
「今までになかった新しい暮らし方ですから、定着するには時間がかかります。そのために質の高いコーディネートを行い、少しずつ成功事例を増やしていければと思っています」(石橋さん)
厚生労働省は、2025年には65歳以上の高齢者が3657万人、およそ3人に1人の割合になるとの見通しを立てている。
高齢者は施設へ入所するのではなく、住み慣れたわが家で安心して暮らせる。また若者を支援することで、新たな役割も得られ、生きがいにもつながる。学生も経済的な負担が軽くなり、親元を離れても安心して暮らしていける。双方にメリットをもたらす暮らし方。超高齢化社会を迎える日本では、これから広がっていく余地は大いにあると言えそうだ。
ちなみにこの夏、大学生の三原さんは南アフリカへ留学の予定だ。浅見さんは、いまから南アフリカへ会いにいくことを楽しみにしているという。(吉田由紀子/5時から作家塾(R))
《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。