東大が調べてわかった老いの入り口 滑舌の悪い人は“死亡リスクが2倍”のワケ
提供:PRESIDENT Online口の衰えは死亡リスクを高める。東京大学高齢社会総合研究機構が介護を必要としない状態の65歳以上、約2000人を約4年間追跡調査したところ、口の衰えを感じていないグループの死亡率を1とすると、衰えを感じているグループは死亡率が2.09倍となることがわかった。なぜなのか。同機構の飯島勝矢教授が解説する--。
※本稿は、飯島勝矢『東大が調べてわかった 衰えない人の生活習慣』(KADOKAWA)の第3章を再編集したものです。
「食べこぼし」「滑舌の悪さ」がサイン
「口の衰え」と聞くと、歯周病や歯の残存数ばかりが浮かぶのではないでしょうか。しかし、口腔機能を支えている、いちばん大切なものは筋肉です。舌は筋肉のかたまりともいえ、舌圧(舌の力)や、咬合力(こうごうりょく=噛みしめる力)、滑舌(かつぜつ=しゃべる発音の巧みさ)も、年をとれば老化します。
加齢によって口腔機能が衰えることを「オーラルフレイル」(フレイルとは健康と要介護の中間地点のこと)と呼びますが、その兆候は「食べこぼし」「ささいなむせ」「硬い食品を避けるようになる」「口の中が乾燥する」などです。
「お茶や汁物でむせることがある」「さきいか・たくあんぐらいの硬さのものが噛めない」「滑舌が悪くなった」といっても、生活上、それほど困るほどのことではないので、気にせず過ごしている人が大半ですね。
口の機能低下は全身の筋肉量の低下
しかし、硬いものを避けて柔らかいものしか食べないと、噛む筋肉が衰えていき、来年はもっと噛めなくなります。ふだん意識することはほとんどないでしょうが、「噛む」「飲み込む」などの口腔機能は筋肉によって維持されていますから、腕や脚と同じように筋肉量が減れば口にかかわるすべての機能が衰えます。これが、全身への負の連鎖を生むのです。
口の衰えから食欲の低下や食べられる食品の減少を招くと、特に硬い肉類を避けるようになります。すると、たんぱく質量の摂取不足をおこして、さらに全身の筋肉量が減少します。筋力が衰えれば口に関わるすべての機能はさらに衰えていき……と、この積み重ねが悪循環となって、全身の機能低下を進行させて死亡リスクを高めます。オーラルフレイルは体全体の衰えにリンクしているのです。
舌の活躍なくしては飲み込めない
80歳になっても歯を20本以上保とうという8020(ハチマルニイマル)運動の達成者率は、「平成28年歯科疾患実態調査」によれば51.2%です。しかし、上下の歯がそろっていなかったり、噛み合わせが悪かったりすると、せっかく歯が20本残っていてもうまく食べることができません。
実は私の患者さんの中に、歯が1本もなく、歯茎だけで食べているのに栄養状態が良好な人がいます。不思議でしょう? なぜかといえば、その人は咀嚼力があり、嚥下(えんげ)機能がしっかりしているから。
口の機能は歯の本数だけでは決まらないのですね。唇から歯、舌、飲み込みまで、トータルで評価するべきで、滑らかに動く舌の活躍がなければ、食べ物を食道に送ることもできません。
私たちはご飯を食べながら、水や汁物を飲みながら、息を吸ったり吐いたり、おしゃべりもする。特に意識することもなく、いくつものことが同時にできる「口」を改めてすごいとは思いませんか?
そして、それにかかわるのが、口を動かす筋肉量、筋力なのです。
口はあなたの通信簿
「この前、歯医者に行ったのはいつだったろう?」
こんな人はオーラルフレイルの黄色信号です。
「口はその人の通信簿」「歯はインテリジェンスの表れ」ともいわれ、口を見れば、あなたが健康意識が高い人かどうかがわかります。かかりつけの歯医者を持ち、歯が痛くなってから駆け込むのではなく、年に3~4回は、歯の定期検診を受けましょう。そのときに、虫歯や歯周病だけではなく、口臭がないか、噛みあわせが悪くないかも見てもらい、「そういえば……」という気になることも相談しましょう。
ひとりで食事をする回数を減らすことも大切
さて、こうした大切な口腔機能を維持する方法は次の5つです。
(1)しっかり噛んで、しっかり食べ、低栄養を防ぐ。
(2)歯ごたえのある食材を意識して取り入れる
(3)かかりつけの歯医者を持ち、定期的にチェックしてもらう。
(4)継続的に運動をしたり、こまめに体を動かして筋力を保つ
(5)ひとりで食事をする回数を減らす。
最後の(5)を唐突に感じる方がいらっしゃると思います。しかし、人と一緒に食事をしながらおしゃべりを楽しむことは、幸福感にもつながりますし、「食力」の維持を多いに助けてくれます。1日1回以上は、だれかと一緒に食事をすることがフレイル予防になるという調査結果も出ています。
友達同士でカラオケに行くのも立派なオーラルフレイル対策。家族や友達と早口言葉を競い合うのもいいでしょう。
人との関わりを増やすことは、オーラルフレイルの予防にとても役立つことが「柏スタディ」でわかってきたのです。
飯島 勝矢(いいじま・かつや)
東京大学高齢社会総合研究機構教授。医師、医学博士。
東京慈恵医科大学卒業後、千葉大学医学部付属病院循環器内科入局。東京大学院医学系研究科加齢医学講座講師、米国スタンフォード大学循環器内科研究員等を経て、現職。内閣府「一億総活躍国民会議」有識者民間議員。著書に『東大が調べてわかった 衰えない人の生活習慣』(KADOKAWA)
(東京大学高齢社会総合研究機構教授 飯島 勝矢)
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