【IT風土記】広島発 銀行をインバウンドの窓口に 音声翻訳サービスで多言語対応

 
スタッフの堀泰子さん。瀬戸内エリアの観光振興に向けてさまざまな企画を検討中だ

 広島市の中心街にある広島銀行八丁堀支店が昨年12月、瀬戸内エリアの観光支援を展開する瀬戸内ブランドコーポレーション(BC)と連携して訪日外国人向けの観光案内所をオープンさせた。案内所には英語やフランス語が堪能なスタッフが常駐。スタッフが対応できない中国語や韓国語には、ICT(情報通信技術)を活用した多言語音声翻訳サービスを利用している。高い精度での翻訳が可能で、言語の壁を越えたコミュニケーションを実現している。

 訪日観光客を瀬戸内に呼び込め

 「開設から半年足らずですが、利用は徐々に増えています。先日も年配の外国人の男性が『一人旅で、ゆっくり松山で過ごしたい』と相談に来られました。1泊2日の観光プランを紹介して、宿泊先の予約もされていました。うれしく思われたようで何日か後にまた立ち寄っていただきました」。そう語るのは広島銀行八丁堀支店にある観光案内所「Setouchi Information Center(瀬戸内インフォメーションセンター)」のスタッフ、堀泰子さんだ。

 広島銀行八丁堀支店はオフィスビルやショッピングビルが立ち並ぶビルの一角にあり、原爆ドームや平和記念公園、広島城などの観光スポットも徒歩圏内に位置する。1階のATMコーナーの奧にある観光案内所は外貨両替ショップに隣接し、両替などに訪れた外国人観光客が立ち寄りやすいレイアウトになっている。

 観光案内所を運営する瀬戸内BCは、瀬戸内エリアの観光ブランド化を推進するために瀬戸内7県で組織される「せとうちDMO」の事業会社で、瀬戸内エリアの観光産業の活性化に向けて、この地域の観光関連事業者の事業支援などを行っている。広島銀行からの要請を受けて初めて、案内所の運営に携わることになった。

 「広島の観光案内にとどまらず、広島を訪れた外国人観光客に瀬戸内エリアにも足を延ばしてもらえるような観光案内所にしました」と瀬戸内BCの杉本安芸マネージャー(当時)。外国語で書かれた瀬戸内各地の観光パンフレットが充実しているほか、瀬戸内の特産品などを紹介できる展示スペースもあり、外国人観光客に瀬戸内エリアの魅力を発信している。

 堀さんをはじめ4人のスタッフが交代で常駐しているが、英語やフランス語しかできない堀さんたちの活動の心強いサポーター役となっているのが多言語音声翻訳サービスだ。

 言語の「壁」を取り払う

 このサービスはNECが提供しているもので、話しかけると翻訳した結果を瞬時に音声で読み上げ、テキストで画面に表示する。簡単な操作で、日本語から英語、中国語、韓国語に翻訳ができ、その反対に英中韓の言語を日本語に翻訳することもできる。

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の開発した観光会話向けの高精度翻訳エンジンを採用し、地名や駅名、名産品などの固有名詞を追加で辞書登録することも可能だ。スムーズな翻訳サービスを提供するため、NECが長年研究により培ってきた音声まわりの技術や知見が活用されている。「変換に間違いが少ない。特有のイントネーションがあってもしっかり変換してくれます」と堀さんも感心していた。

 広島県は、原爆ドームと厳島神社という2つの世界遺産があり、多くの観光客が訪れる日本屈指の観光地だ。2016年にアメリカのオバマ大統領(当時)が広島平和記念公園を訪れ、核兵器廃絶を訴えたことをきっかけに海外での知名度が上昇。この年、広島を訪れた外国人観光客の数は初めて200万人を突破、14年に比べ約2倍に増えた。

 特徴的なのは、欧州や米国など欧米系の外国人が過半数を占めていることだ。東京や大阪では、中国人や韓国人の観光客ばかりが目につくが、原爆ドームや平和記念公園の周辺を歩くと、逆に見つけるほうが難しい。それだけに市内の他の観光案内所でも英語ができるスタッフを置いている反面、中国語や韓国語への対応が不十分だという。「主要な国々の言語に対応できるスタッフを揃えるのがベストですが、スタッフの確保は難しい面があります。中国や韓国からの観光客の増加が予想される中で、ICTを活用することで、中国語や韓国語にも対応できる環境を整えました」と杉本マネージャーは胸を張った。

 “銀行らしくない”店舗づくりに貢献

 銀行の店舗に外国人観光客向けの観光案内所を設けるのは全国的にも珍しい取り組みだ。広島銀行営業統括部チャネル・ネットワーク企画室の竹島智文室長は「ICTやAI(人工知能)の広がりなどで私たちを取り巻く環境が大きく変化しています。その中で、『銀行らしくない店舗』づくりにチャレンジしたかったのです。海外の観光客に広島のよさ、瀬戸内の良さを知ってもらうことは地方創生の観点からも意義があると考えました」と説明する。観光案内所の開設から融資など本来の銀行業務にとどまらない新しい形での地域経済へのサポートのあり方を模索しているのだ。そして、多言語音声システムは、そんな広島銀行のチャレンジを手助けしてくれる機能も備えているという。

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