五月病に「頑張れ」は逆効果? 元気がない部下への話し方に潜む怖い「落とし穴」

 
※写真はイメージです(Getty Images)

 【藤田尚弓の最強の話し方】 気持ちがうまく伝わらない。悪気はないのに相手を不快にしてしまった。皆さんも、そんな経験はありませんか? この連載ではコミュニケーション研究家でアップウェブ代表取締役の藤田尚弓が、ビジネスシーンでの「最強の話し方」をご紹介していきます。

 第9回は、元気がない部下への話し方。

 五月病という言葉があるように、この時期は新しい環境に適応できない人たちに何らかの不具合が出てくる時期といわれています。

 叱って喝をいれようとする人、「頑張れ」と励ますという人もいると思いますが、いずれも注意が必要なやり方です。五月病に限らず部下に元気がないときにはどう接すればいいのか。励ますときの「最強の話し方」を解説します。

◆「叱る指導」を受けたマウスの恐ろしい顛末

 覇気のない部下に対して「しっかりしろ」「やる気を出せ」など、叱る指導をする人たちもいます。

 部下は叱られるという不快な状況を避けるために、期待される行動をとろうとしますので、こういった指導にも効果はあるのかも知れません。

 しかし、望ましいことをした場合には報酬を与え、(結果として)悪いことをしてしまった場合には罰を与えるという方法には弊害があります。

 エサと電気ショックを使って、マウスに道を学習させるという有名な実験があります。正しい方向に行くとエサがもらえて、間違った方向に行くと電気ショックを与えられたマウスは、研究者たちの意図どおりに、どう行動するべきかを学習しました。

 しかし、電気ショックを少し強めにすると、マウスたちは道を覚えるどころか、正しい道を探すこと自体をやめてしまいます。そしてチャレンジすることをやめてしまったマウスたちの胃には潰瘍が認められたそうです。

 人間の世界でも、強過ぎる叱責は逆効果と言えるでしょう。心身の健康を損なうリスクはもちろんですが、「自己効力感」を低下させるデメリットは計り知れません。「自己効力感」とは、カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、ある状況下で適切な行動を自分が成し遂げられるか見通せる感覚を指します。

 「叱りの度合いが適切なら大丈夫」と思うかも知れませんが、どの程度が適切なのかは受け手によるところが大きく調整は難しいのです。

 五月病は環境の変化によって心身ともに疲れがたまった状態ですので、叱るという指導はマイナスにしか働かないと思ったほうがよさそうです。

 では褒めて育てる上司が多用する「頑張れ」「なんとかなるよ」といった励ましはどうでしょうか。次に、意外な落とし穴と対処法をご紹介します。

◆「頑張れ」という言葉の功罪

 「頑張れ」という言葉は励ますときの定番フレーズです。励まされて嬉しいと感じたことがある人も多いと思います。

 しかしショックな出来事があった直後だと「頑張って」という言葉を素直に受け止めることができずに、不快になってしまうというケースもあります。

 《励ましが不快感に繋がる例》

 ・「精一杯頑張っているのに、これ以上どう頑張ればいいのだろう」と怒りを感じる。

 震災で被災した人たちを対象にした調査でも「頑張ってという言葉が辛かった」という意見が出ています。

 「頑張れ」と同様、励ますつもりが不快感を与えてしまうことがあるフレーズは他にもあります。具体例と言い換えの例をみて励ましの勘どころをつかんでおきましょう。

 (例1)「なんとかなるよ」

 リカバリーの目処がたっていない時期にこのような言葉を投げかけられると無責任な印象を持たれてしまいがち。「いい方向に向かうように応援させてもらうよ」といったフレーズに言い換えるとよいでしょう。

 (例2)「俺のときはもっとひどかった」

 参考になればというつもりかも知れませんが、トラブルの渦中にいる人には武勇伝と受け止められがちです。「似たような経験があるけど、辛いよな」といった共感のフレーズに言い換えるとよいでしょう。

 「頑張れ」と言われて嬉しいときもあるのに、辛くなってしまうときもある。その理由の一つにタイミングがあります。ショックを受けた直後には、「現実を受容できない」「怒りの感情がある」「自尊心が傷ついている」など、気持ちが不安定になりがちです。

 このタイミングでは、辛さをわかってあげたいという気持ちを伝える程度にとどめるのがよいでしょう。

◆「話を聞いてもらうと楽になる」は本当か?

 そのほか、よく使われるフレーズに「話せば楽になるよ」というのがあります。

 しかし、心情を吐露すれば気持ちが楽になるというケースばかりではありませんし、男女によって違うという研究があります。

 それでは、ストレス緩和の男女差をご紹介します。

 話せば楽になるという経験は皆さんにもあると思います。特に女性の場合、話を聞いてもらうことによりストレスを緩和する効果が期待できます。

 しかし男性の場合、恥の感情や自尊心の関係で、話すことが逆にストレスになってしまうことがあります。特に感情の吐露がしにくい悩みの場合では、無理に聞き出すことで更に辛くなってしまうということもあるでしょう。

 最近は五月病だけでなく、六月病と呼ばれる心身の不具合を長い間訴える人も増えているそうです。どちらも環境の変化による疲れが原因と言われており心身の休養が必要です。

 喝を入れるような指導や押しつけの励ましは避け、見守りや共感を意識した声がけをする。これが元気のない部下への最強の話し方なのです。

藤田尚弓(ふじた なおみ)

コミュニケーション研究家
早稲田大学オープンカレッジ講師 株式会社アップウェブ代表取締役
企業のマニュアルやトレーニングプログラムの開発、テレビでの解説、コラム執筆など、コミュニケーション研究をベースにし幅広く活動。著書は「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)他多数。

【藤田尚弓の最強の話し方】はコミュニケーション研究家の藤田尚弓さんがビジネスシーンで活用できる会話術を紹介する連載コラムです。更新は月初木曜日。

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