それは単なる自己陶酔 空気を読みすぎる人が「KY」になるメカニズム

提供:PRESIDENT Online
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 空気が読めないのに出世する人の特徴

 社内を見回すと、空気を読んで行動することにずば抜けて長けていたのに失脚していく人間もいれば、空気を読まない言動が多いのに上司から気に入られて出世していく人間もいるのではないでしょうか。上司からすれば空気を読める部下のほうが使い勝手がいいはずだし、空気を読まない人間とは一緒に仕事もやりにくいはずです。それなのに、なぜそんなことが起こると思いますか。

 この謎は「空気を読む」という言葉を「忖度する」という言葉に置き換えると解決します。

 2017年の森友学園問題や大企業のデータ改ざん、昨今の政権与党へのメディアの自主規制など、さまざまな事件や問題が立て続けに起こったためにネガティブなイメージが定着してしまいましたが、そもそも「忖度」は「相手の気持ちを推し量る」という意味を持ち、戦わず、平和的に物事を進める日本ならではのコミュニケーションのあり方です。

 気持ちを慮って対応する文化

 自分基準で行動して自己主張する欧米では、言葉で伝え、説得し、意見が通らなければ闘いも辞さないという文化があります。だから裁判や争いごとが絶えません。

 対して日本では、自分の主張を相手に言葉ではっきり伝えたり、前面に押し出したりすることは恥ずかしいこととする考え方があり、「自分勝手な主張は見苦しいから」と遠慮をして口に出しません。受け取る側もそんな相手の要求や思いをくみ取り、気持ちを慮って対応する文化があります。

 例えば、会食で取引先のビールグラスが空きそうなとき。招待された側は自分からお替わりを要求するのははばかられますから、招待した側が先回りしてグラスを満たすなり、新たな注文をする。これも1つの「忖度」です。

 このとき、自分が接待する側の最年少で社歴の浅い平社員であった場合は、入り口に近い下座で率先して注文をしたり、話はふられたときにだけして熱心な聞き役に徹するといったことがよしとされます。

 先方のグラスがずっと空いたままでも気にも留めず、自分の追加注文だけをしてしまったら、相手のことを思いやれない「KY(空気が読めない)な人」「忖度できない人」になりますし、上司から「ビールを追加して」と指示を受けないと注文しなければ、「言われたことしかやらない人/できない人」と見なされます。

 できなくても、しすぎても、減点される日本社会

 このように、日本で「忖度」や「空気を読む」ことは歓迎されるにもかかわらず、「空気を読みすぎて失敗してしまう人」がいます。それは「忖度しすぎる人」です。

 例えば、「上司から『なにがなんでも前年の売り上げを上回るようにしろ』と言われて売り上げの数字を改ざんしてしまう」とか、「上司と仲のよい取引先から不当な要求を受けたときに、上司の顔をつぶさないようにと勝手にその要求を受け入れてしまう」とか、「上司から『次のコンペではライバル企業に絶対に勝とう!』と言われたため、コンペの前に取引先にリベートを渡した」といったことがあげられます。

 忖度しすぎる人は相手がそこまで望んではいないことまで深読みして勝手な判断でやってしまいます。「手柄を立てて認められたい」という承認欲求が強かったり、出世欲の強い戦略的な人だったりするからです。

 「忖度」とは相手のことを思いやる気持ちから生まれるものですが、忖度しすぎる人の思考は、「上司のために自分が一肌脱いだ。そんな自分は評価されるだろう」と、自分中心の考え方に陥っているのです。

 どちらもコミュニケーションに慣れていない

 「空気を読みすぎて失敗する人=忖度しすぎる人」と「空気が読めない人=忖度できない人」に共通していることは、コミュニケーションに慣れていない点です。

 「忖度しすぎる人」は、上下関係を意識して育ったものの、どの程度の忖度でコミュニケーションをとればいい塩梅になるのかがわかりません。

 上司の表情や言葉尻、その場の雰囲気を深読みしたり、思い込みをしたりすることによって忖度しすぎてしまううえ、気を利かせて動いている自分に陶酔してしまう人もいます。

 空気を読めない人の「4つの特徴」

 一方「忖度できない人」は、親や教師、学校の先輩との間に上下関係をあまり意識せずに育った人に多く見られます。気を使う場がなかったために、相手がこれを望んでいるだろうと想像力を働かせたり、指示されたことをやるなら同時にこれもやっておいたほうがいい、と広げて考えたりすることができません。

 近年は「忖度できない人」のなかに、「謙虚すぎる人」も増えています。このタイプは「自己主張するのは見苦しいこと」「怒られたり失敗したりするかもしれないから、余計なことはしないほうがいい」と考えてしまう傾向があります。上司が期待していても、それを忖度して動くということがありません。自発的には動かず多数派に同調し、上司の指示にも黙って従います。

 あなたが「忖度しすぎる人」「忖度できない人」なら、やりとりはメールを避けて直接行い、相手の反応を注視しましょう。仕事では勝手に判断せず、上司への報告や相談はこまめにして、確認をとります。

 あなたが上司の立場なら、部下が相談しやすい空気をつくり、まめに声をかけることも必要です。その際、「忖度しすぎる人」には、「いろんなことにすぐ気づいてくれて助かっている。ただ、勘違いがあると困るから、その都度報告や相談をしてほしい」と、「忖度できない人」には、やってほしいことを具体的に伝えます。「忖度できない謙虚な人」には、「慎重なのはいいが、君のよさをもっと伸ばすため、減点法は取らないから、失敗を恐れずチャレンジしよう」と伝えて安心させましょう。

 ▼こんな人が危ない!

 空気を読みすぎる人4つの特徴

 1:上下関係のあるところで育った

 2:認められたいという意識が強い

 3:戦略的

 4:報告・連絡・相談が少ない

 空気を読めない人4つの特徴

 1:上下関係のないところで育った

 2:ほめられて育った

 3:洞察力がない(想像力が働かない)

 4:報告・連絡・相談はメールが多い

 ※取材をもとに編集部作成。

 榎本博明(えのもと・ひろあき)

 MP人間科学研究所代表

 心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て現職。『なぜ、その「謙虚さ」は上司に通じないのか?』、『「忖度」の構造』ほか著書多数。

 (MP人間科学研究所代表 榎本 博明 構成=干川美奈子 写真=iStock.com)