ネットの医療広告に法規制 個人の主観的体験談は×

 
医療機関のサイトに目を光らせるネットパトロールのスタッフら=東京都千代田区の日本消費者協会

 医療法が一部改正され、6月から医療機関のウェブサイトなどが新たに広告規制の対象になる。美容医療や、がんが治るなどといった自由診療の広告表現が問題視されるなか、副作用やリスクの説明のない“事前・事後”の写真や、患者の体験談などはインターネット上でも禁止される。違反には都道府県が中止や是正命令も出せるようになり、罰則もかかる。(佐藤好美)

 ◆規制内容の明確化

 東京・神田神保町にある一般財団法人「日本消費者協会」の一角に、医療機関のウェブサイトを監視する「医療機関ネットパトロール相談室」がある。10人前後のスタッフがパソコンで医療機関のサイトをチェック。嘘や大げさな表現がないか確かめる。

 事業は、改正医療法の成立を機に、同協会が厚生労働省の委託を受けて、昨年8月から実施。12月までに730のサイトをチェックし、112の医療機関に改善を通知した。複数回の通知でも改善されなければ、6月からは都道府県などに情報を提供。都道府県が立ち入り検査や、中止・是正命令も行える。

 同協会専務理事の唯根(ゆいね)妙子さんは、「何が禁止か、知らない事業者が多い。改善の要請があったら、それをきっかけに自粛、自制に動き出せば、1、2年目の効果としては大きいと思う」と言う。平成30年度中に1500のサイトをチェックする。

 ウェブサイトの広告はこれまで、医療法の広告規制の対象外だった。ガイドラインはあっても罰則などはなく、機能していなかった。美容医療などの消費者トラブルが問題になり、内閣府の消費者委員会から2度にわたる対策要請があり、医療法が改正された。

 合わせて、規制される内容も明確化された。禁止されるのは、「絶対安全な手術です!」などの「虚偽広告」▽科学的根拠の乏しい治療法の効果を強調する「誇大広告」▽「最高の医療を提供しています」などの「比較優良広告」▽個人の主観に基づく「体験談」▽費用やリスク、治療内容の詳細のない「施術前・施術後の写真」-など。違反した場合には6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金が科される。

 ◆「推奨サイト」にも

 また、医療機関のサイト以外にも対象を拡大。特定の医療機関からの広告料などで運営される「ランキングサイト」や「口コミサイト」、個人(アフィリエイター)が報酬を受けて医療機関などを推奨するブログも規制の対象。記載内容によっては、こうしたサイトの運営主体や個人も指導の対象になる。

 ただ、ウェブサイトの中には、専門家でないと加工したことが分からない画像や、書き込みをしている人が報酬を受け取っているかどうか把握できないブログもあり、課題は多い。唯根さんは「一般からの情報提供が頼り。不適切なサイトは、通報フォームにアドレスや広告内容を張り付けて送ってほしい」と話している。

 医療機関ネットパトロールは、http://iryoukoukoku-patroll.com/ (電)03・3293・9225。

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 ■広告として不適切な例

 「国内最高峰の○○治療を行うクリニック」

 「○○満足度ランキング△△部門全国総合第1位」

 「この夏おすすめ!特別プラン」

 「誰でも、どんな○○にも治療効果が期待できます」

 「最先端医療のがん○○療法に副作用はありません」

 「モデルも通う、○○クリニック」

 (厚生労働省の資料から)

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 ■「術前・術後」、虚偽まがいも 撮影条件変えて“治療効果”

 自由診療を行う医療機関などがウェブサイトで示す「術前・術後の写真」には、改正医療法で「虚偽」や「誇大」広告にあたるものもある。

 国立がん研究センター・がん対策情報センターの若尾文彦センター長は「異なる条件で撮影した写真を掲載するクリニックはある。いくつかのパターンがある」と注意喚起する。

 ある自費診療を推奨するサイトには、肝臓がんの「治療前・治療後」のCT(コンピューター断層撮影)画像が掲載されている。イラストは、それをモデル化したものだ。若尾センター長は「治療前の写真では大動脈や血管が白っぽく映っており、治療後の写真では黒っぽく映っている。これは、治療前の写真は造影剤を使って撮り、治療後の写真は造影剤なしで撮ったため。同じ条件で撮れば、治療後の画像にも腫瘍が映った可能性がある」と指摘する。

 撮影条件を変えるこうした手法以外にも、さまざまなトリックがある。

 別の自費診療を行うクリニックは、腎がんの患者のCT画像を時系列で並べている。画像は、腎がんが大きく映る位置から、少しずつ低い位置での画像へ移行しており、腫瘍が小さくなったように見える。

 他にも、腫瘍が小さく見えるように胃のエックス線写真を斜めから写したり、保険適用の治療を併用する患者の腫瘍の縮小を、自院の治療効果として掲載したりするところもある。

 若尾センター長は「術前・術後の画像が同じ人のものなのか、時系列は正しいのか、本当のところは分からない。クリニックのなかには改正医療法を見据えて、サイトから事例写真を削除し、資料請求や説明会などの規制されない場に移す動きもある」と潜在化を心配する。

 医療機関のサイトに、罰則つきの改正医療法が適用されるのは大きな一歩。そう指摘したうえで、若尾センター長は「患者さんは、まずは主治医に相談してほしい。主治医はそれに丁寧に応えないといけない。そうしないと、結局、患者さんは効果の分からない治療に走ってしまう。医療者が不適切なサイトを通報していくことも、今後は重要だと思う」と話している。