【IT風土記】九州発 新鮮な日本産の青果物を低コストで海外に 革新的輸出システム構築目指す

 
コンソーシアムが開発した多温度帯コンテナ。九州の青果物を積み終え、トラックで博多港に向かう

 さまざまな種類の青果物を1つのコンテナに混載して海外に輸送する新しい物流システムの研究開発が九州で進められている。冷蔵・冷凍設備を持つコンテナを2つの温度帯を設定できるように改良することで、本来は難しい青果物の混載を実現させた。このコンテナが実用化できれば、日本の青果物を低価格で海外の消費者に提供でき、マーケットの拡大が期待できる。

 香港での人気の日本の青果物

 香港は日本の農林水産物や食品の輸入が最も多い地域だ。他の国・地域に比べ、輸入規制が少なく、関税も無税で、輸出しやすい環境にあることに加え、ここ数年、日本食がブームになっており、日本産の農産物・食品への関心が高まっていることも背景にある。

 香港の中心市街地にある高級スーパーでも日本の青果物をよくみかけるが、その価格は日本に比べ、驚くほど高価だ。例えば、九州産のハウスみかんの現地の売価は1キロ370香港ドル(1HKD=約14円)。日本円にすると、約5200円にもなる。ナスは2つで約30香港ドル、キャベツは半分のサイズで15香港ドル前後。日本での価格の2~3倍の価格水準だ。香港への青果物の輸出は、航空便が利用されているが、輸送コストは船便のおよそ6倍程度とされる。輸送コストがそのまま価格に跳ね返ってしまっているわけだ。

 「航空便を利用するのは、鮮度のいい状態で輸送するためだが、1つの品目を1つのコンテナで満載するほど現地の需要がないことも背景にある。今は富裕層向けに販売しているが、価格が下がり、中間所得層にも日本の青果物の良さを認知してもらえば、輸出がさらに増えることが期待される」と九州大学大学院農学研究院の内野敏剛特任教授は指摘する。

 内野特任教授は、農業や食品に関する研究を行っている国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)を中心に組織された産学官連携のコンソーシアムのメンバーの一人。九州大学のほか、岩手大学、福岡・熊本・鹿児島の3県の農業研究機関、NECソリューションイノベータ、デンソー、西日本鉄道、九州農産物通商、JA筑前あさくら、JAやつしろ、JA指宿の3農業協同組合などが参加。生物系特定産業技術研究支援センターの支援を受け、日本産の青果物の輸出拡大につながる革新的な低温物流システムの研究・開発に取り組んでいる。

 混載を実現する冷蔵コンテナ

 コンソーシアムの取り組みは大きく2つの柱に分かれる。一つは、青果物の混載が可能な冷蔵コンテナの開発。もう一つは広域の産地を連携させた輸出システムの構築だ。

 新たに開発されたコンテナは、冷蔵コンテナの内部を2つの部屋に仕切り、1つのコンテナで2つの温度帯に設定できるようにした。さらに青果物の鮮度に大きな影響を与えるエチレンガスを分解する装置も備えられている。「青果物には、それぞれ鮮度維持に適した温度がある。その温度より低温だと劣化が急速に進んでしまう。品目によってはエチレンガスという植物ホルモンを発生させ、他の品目に悪影響を与えるものもある。こうした障害を極力排除したのが新たに開発したコンテナの大きな特徴だ」と、内野敏剛特任教授は説明する。

 コンソーシアムは5月下旬から6月上旬にかけて、このコンテナの実用性を試験。積み込んだのは、福岡県産のモモやイチゴ、ミズナ、熊本県産のスイカ、トマト、鹿児島県産のマンゴーやカボチャなどコンソーシアムに参加する九州3県の青果物約二十数品目だ。5月29日に福岡県久留米市にある福岡県農林業総合試験場資源活用研究センターで積み込み作業を行い、博多港を出発。6月8日、香港・青衣(チンイ)島にある青衣工業中心(産業センター)に到着した。

 内野特任教授ら約30人のコンソーシアムのメンバーが香港に出向き、それぞれの青果物の鮮度の状況を一日がかりで調べ上げたがほぼすべてが販売可能な状態で、期待通りの成果を得たという。

 実用化に欠かせないIT技術

 一方、このコンテナを機能的に運用するには、もう一つの柱であるITを活用した輸出システムの構築が不可欠だ。さまざまな青果物を混載する分、運用が複雑になるためだ。輸出事業者がどの青果物をどの温度帯に積めばいいのか理解していなければ、輸送中に青果物が劣化し、売り物にならないといった事態も起こりかねない。

 そこで、それぞれの青果物の特性をまとめた「品目特性カルテ」を作成した。3県の農業研究機関がそれぞれの産地の野菜や果物について鮮度維持に最適な保存温度、エチレンガスの発生量や感受性、呼吸の速度などを調査。「実際に0度、5度、10度の温度で保存したり、強制的にエチレンガスにさらしたりして青果物の状態を確認した」とシステムの開発を担当するNECソリューションイノベータ九州支社・共創事業推進グループの中浦秀晃・上級プロフェッショナルは説明する。

 このカルテをデータベース化し、クラウドコンピューター上でその情報を輸出事業者に提供。複雑な青果物の混載パッケージを簡単に作成できる仕組みの構築を目指している。ただ、「コンソーシアムが目指しているのは、それだけではない」と中浦・上級プロフェッショナルは強調する。最終的な目標は、地域をまたがり青果物輸出をワンストップでサポートできるクラウドサービスの提供だ。

 (この続きはNECのビジネス情報サイト「wisdom(閲読無料)」でお読みください