【視点】ライフワーク副業は地方の救世主 都心の高度人材還流で活性化
今年に入り大手企業が続々と副業を解禁し、政府も推進する方向に舵を切った。まさに2018年は「副業元年」だ。クラウドソーシング大手のランサーズによると、副業を許可する企業の割合は17年の35%から62%に上昇。副業・兼業者の5割が従業員50人以下の企業に勤めるとはいえ、5000人以上の企業勤務者の割合は17年の1.9%から9%に高まった。(産経新聞編集委員・松岡健夫)
この調査から分かるように、副業の位置づけが変わってきた。従来は小遣い稼ぎ、つまり本業で稼げない人が生活補填(ほてん)を目的に終業後に飲食店などでアルバイトに精を出すイメージが強かったが、今ではスキルアップや自己実現のための手段として励む人が増えている。本業に続いて副業でも生活のために働く「ライスワーク」から、自分の信念や志をもって取り組む「ライフワーク」のために進んで選ぶ傾向が強くなっている。
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ライスワーカーからライフワーカーに進化した人は、本業が給与面を含めて充実しているからとはいえ、副業には動機を求める。言い換えると、副業そのものに興味があるわけではなく、経済的成功を目指しているわけでもない。あくまでも自分の理想とする欲求を満たすための手段という位置づけだ。
その活躍の場はどうやら地方にあるようだ。というのは、多くは都会の大企業に勤めており、地方経済の疲弊ぶりを聞くと、磨いてきた最先端スキルを使って活性化に貢献したいという意欲がかき立てられるからだ。ふるさとに戻ったり、行ったこともない地方へのあこがれだったりもある。
こうした動機を探していたライフワーカーに打って付けのプラットフォームとして注目を集めているのが、人材紹介などを手掛けるグルーヴスの「スキルシフト」だ。地方企業が抱える課題に、都心で活躍する高度人材が副業で応える仕組みを構築、業務を任せられる高度人材を求める地方企業とのマッチングに効果を発揮している。
地方の中小企業が地元で求人情報を出しても、求めるスキルを持つ人材を得るのは難しい。かといって都心の大企業で働く高度人材を引っ張ってくるほどの報酬・待遇を提示できるわけでもない。しかし「都会での生活やキャリアを捨てなくてもいい副業なら可能だ。しかも月額数万円で力を貸してくれる」とスキルシフトを発案し運営する同社の鈴木秀逸CSV事業推進マネージャーは指摘する。
本業の合間を縫ってわざわざ地方に出向くだけの魅力、言い換えると動機があれば喜んでスキルを提供するというのだ。スキルシフトで副業を見つけた一人は「自分のキャリアが力になれると感じたから」と語る。「お金ではなくスキルアップ。将来につながる絶好の機会ととらえた」という人もいる。このように多くの人が副業先に選んだ理由としてスキルアップ、起業の手伝い、地方創生などをあげる。
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人口減少・高齢化に悩む地方自治体にとってもスキルシフトは救世主になりうる。ライフワークに訴えることで無理なく地方に高度人材を還流できるからだ。
団塊世代の移住に注力してきた岩手県八幡平市は「移住者を呼び込んで人口減少を食い止めるのは非常にハードルが高いことが分かった。しかし関わりを持つ人が増えることで課題を解決できる」と副業者による関係人口の増加に期待を寄せる。
北海道石狩市も関係人口の増加で地域活性化を目指している。担当者は「スキルシフトは地域の担い手確保、関係人口の創出に通じると考えている。副業マッチングのロールモデルとして市内事業者に紹介しながら外部人材の誘致に向けた機運を高めていきたい」という。
若者人口の減少で企業の採用も難しくなる。人口流出に歯止めがかからない地方はなおさらだ。それだけに正社員だけに頼らず、フリーランスや副業・兼業者の手を借りるスキルシェアが欠かせない。イノベーション(革新)を起こすのはよそ者(外部人材)といわれる。副業解禁時代を迎え、都心で働く高度人材の地方への還流、文字通りのスキルシフトが地方活性化をもたらすかもしれない。
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