【ゆうゆうLife】家族がいてもいなくても(557) チェコの人形劇団を堪能したら…
那須から新幹線で東京・新宿のJR前の特設会場まで出掛けていった。というのも、チェコの有名な人形劇団、「アルファ劇場」が初めて日本にやってくるというのだ。
以前、チェコ関連の美術展でこの劇団のビデオを見てわくわくしたことがあった。
あのユニークな舞台が、テント小屋ごとやって来るとは! しかも演目が「三銃士」で、人形が私の大好きな手使いで、楽団の生演奏付き。これは見逃せない。
心はやる思いで上演時間の3時間も前に到着し、この情報をキャッチできた自分の運の良さに悦に入っていた。
会場が高島屋の入り口前にあるので、まずは冷房の効いたデパートに入って休憩用の椅子に座って時間を過ごした。
日本のデパートは、まるで遊園地のよう。ディスプレーが華やかだし、ソファもある、トイレも高級ホテル並みの清潔さ、しかも行きかう人も今や多民族のるつぼと化していて、ただ眺めているだけでエンターテインメントだ。
ペットボトルに入れて持参してきた飲み物で水分補給しつつ、時にノートパソコンで仕事をしたり、本を読んだりもして過ごせる。
この頃の私は、暑さ寒さの折はもっぱらデパートで過ごす。気候のいい時は公園で。打ち合わせ場所に公園やデパートを指定して、「はあ?」なんて言われたりもする。
ライフスタイルが、どんどんホームレスおばあさんふうになりつつあるのだ。
そんなわけで、この日もデパート内のより心地よい場所を求め転々として優雅なる時を過ごした。
そして、クライマックスはチェコの人形劇の華麗なるドタバタアクション活劇の三銃士を堪能。その甘美な時間を終えて、帰ろうとしたときだった。
マナーモード中の携帯が、ブルンブルンする。
いつもならスルーするのだけれど、なぜか機嫌よく電話に出てみたら、誰かが「今、どこにいますか?」とか「リュックサックが…」と焦った口調で言っていた。
で、気づいた。
背負っていたはずのリュックサックを背負っていない。どこかに忘れてきたリュックサックを、中を調べて名刺を見つけ電話までしてきてくれた人がいたのである。「お財布とか大事なものが全部入ってるようですよ」と。
そんなわけで、心ある人に拾われたリュックサックも本人が気づく間もなく手元に戻り、なんとも素晴らしい夏の一日だったのである。(ノンフィクション作家・久田恵)
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