西日本豪雨で被災した思い出の品物直す 岡山の絵画修復士らが無償で活動

 
被災した絵画のカビを取り除く応急処置を施す絵画修復士の斉藤裕子さん(右)と今村友紀さん=3日午後、岡山県倉敷市(鳥越瑞絵撮影)

 劣化した芸術作品を修復する「絵画修復士」が西日本豪雨の被災地・岡山で活動している。本場イタリアで専門技術を学んだ女性2人が、浸水で傷んだ絵や家族写真、手紙、母子手帳などを無償で修復。猛暑の中、懸命に活動を続けるのは「思い出の品が復興に向かう被災者の心の支えになるはず」との信念からだ。作品に詰まった思い出をいたわるように一つ一つ手に取りながら日々、作業にあたっている。(浜川太一)

 水を吸ってキャンバスの表面から剥がれかかった絵の具に、小筆を用いて専用の接着剤を塗り、慎重に貼り付けていく-。絵画修復工房「YeY(ワイイーワイ)」(岡山市)を運営する絵画修復士の斎藤裕子さん(41)と今村友紀さん(37)は、張り詰めた空気の中、真剣な表情で作品と向き合う。

 2人は平成13年から3年間、イタリア・フィレンツェの専門学校で、ともに修復技術を学んだ学友。帰国後の18年に岡山市内で同工房を立ち上げ、美術館などが所有する油彩画などの保存・修復を手がけてきた。

 今回のボランティア活動のきっかけは、西日本豪雨の報道だった。娘と孫を亡くした広島県の男性が、孫の描いた絵を持って戸外で立ちすくむ姿をテレビで見て、心を突き動かされた。「私たちに今、何ができるのだろう」

 斎藤さんは兄が阪神大震災で被災。今村さんも熊本県出身で、「熊本地震のときに何もできなかった」という後悔が背中を押した。

 2人は7月11日から岡山県倉敷市真備町(まびちょう)を訪ね、調査を始めた。そこでは生活再建のために片付けが優先され、家庭にあった絵画や写真など、泥にまみれた思い出の品々が次々に処分されていく光景を目にした。

 「復旧が終わって日常に戻ったとき、思い出の品が手元に残っていれば、きっと心の支えになるはず」(斎藤さん)とホームページで修復依頼を募集すると、これまでに200件近い依頼が寄せられた。「結婚した娘の写真をどうか直して」「大切なおばあちゃんの形見の絵を元に戻してほしい」-。電話口の声はどれも涙ぐみ、切実さに満ちていたという。

 「依頼の品には一つ一つにエピソードがある。美術品は値段に応じて価値がランク付けされるが、そんなものさしでは測れない、もっと大切なことがある」と今村さんは力を込める。

 2人は現在、工房だけでなく、倉敷市西岡の龍昌院(りゅうしょういん)を間借りし、定期出張所を開設。活動に賛同した地元の表具師らとともに、4人で作業にあたっている。手弁当のため限界もあるが、「全ては一生に一つの思い出の品物。一つでも多く直すのが私たちの役目」と、修復に込める思いは揺るがない。

 倉敷市での活動は毎週金曜。修復の依頼や問い合わせは絵画修復工房「YeY」((電)086・201・8263)。