100円御用聞き 高齢者の新しい「インフラ」

 
「御用聞き」の古市盛久さん(右)と松岡健太さん

 電球交換、固い瓶の蓋開け、重い荷物の移動、草むしり…。ちょっとしたことでも高齢になると難しくなる、そんな身近な困り事を代行するサービスが人気だ。介護や医療、行政支援の隙間を埋めるような、「5分100円の家事代行」を掲げて注目される会社「御用聞き」。このほど同社が請け負ったベランダの片付け作業に同行した。

 地域に溶け込んで

 「御用聞き」の活動拠点は、高齢化率が35%を超える高島平団地(東京都板橋区)だ。ベランダの片付けを依頼したのは、この団地で暮らす50代の男性。1人暮らしで障害があり、粗大ごみなどを出すのが難しいと、初めて依頼した。

 作業に当たったのは同社取締役の松岡健太さん。男性が鉄道好きと分かると、松岡さんは鉄道ネタの世間話なども交えながら作業。植木鉢や粗大ごみなどをてきぱきと仕分けていく。ごみ置き場に運ぶ作業も含め、約1時間半。足の踏み場もないほどだったベランダは、すっかりきれいになった。

 男性は満足した様子で、「施設に入った母が残していった衣類や家具の処分もお願いしたい」と次の相談も。帰りがけに冷えた缶入り飲料を渡してくれた。

 団地内を歩いていると、高齢の男性が松岡さんに手を振りながら近づいてきた。80歳になるというこの男性は、重い灯油の買い出しなど、何度も御用聞きに依頼しているという。「こういう人たちがいるんで助かるよ、ほんとに」と笑顔で話す。

 ほかにも公園のベンチに座っていた男性があいさつしてくるなど、すっかりこの団地に溶け込んでいる様子が伝わってきた。

 訪問看護ステーションなどとも連携しながら高齢者を支えていることもあり、御用聞きは地域の大切な存在となっている。「電気、ガス、水道、通信に次ぐ“第5のインフラ”として、安全、安心、安価に、こうした生活支援事業を提供していきたい」と社長の古市盛久さんは語る。

 ちょっとした困り事

 もともとコミュニティーカフェなど地域支援事業をしていた古市さんが、現在のサービスを本格化したのは平成28年。電球交換に訪れた高齢女性宅での出来事がきっかけだった。

 玄関ドアが開けっぱなしだったので、理由を尋ねると、インターホンが壊れたが、直し方が分からず、友人が訪ねてきたときに気づかないと悪いからと開けたままにしていたという。インターホンは電池交換しただけで直った。女性は「ありがとう、ありがとう」と大粒の涙を流し、「これでぐっすり眠れる」と喜んだという。

 古市さんはこの瞬間、客観的にはちょっとしたことでも、本人にとっては大変な困り事があることに気づかされた。超高齢化が進む一方で、家族やご近所さんに頼ることが難しくなったいま、そうした困り事を解決する事業が不可欠だと考えた。

 「信頼を得るまでは大変なことも多いですが、個人的には、利用者さんとお話しする中で人生の奥深さや喜びに触れることが多く、刺激的。ありがたい限りです」と古市さんは言う。

 社員は古市さんと松岡さんだけだが、大学生を中心に約120人が一緒に活動している。当初は板橋・練馬両区で実施していた事業を今年6月から東京23区全域に広げた。さらに年内には多摩地域にも拡大し、37年には全国の8割ほどをカバーすることを目指している。

 利用料は電球交換のような簡単な作業は5分100円、粗大ごみ移動などは5分300円。パソコンやスマホの指導なども特別料金で請け負う。

 65~75歳の女性を中心に、月に200件ほどの問い合わせがあり、リピート率は8割ほどだという。問い合わせはフリーダイヤル0120・309・540。(「終活読本ソナエ」秋号から)