【IT風土記】新潟発 舗装道路の損傷をAIで判定 点検コストを大幅削減
全国津々浦々に張り巡らされた道路網。その延長は実に約120万キロにも上る。地球30周分に当たる距離だ。その8割以上を市町村が管理しているが、人員や予算不足で十分なメンテナンスが進んでいないのが実情だ。そんな中、新潟市に本社がある道路舗装工事大手、福田道路がAI(人工知能)によって低費用で効率的に舗装道路の点検ができるシステムの運用を始めた。
車載カメラで撮影、画像を解析
新潟市西蒲(にしかん)区の工業団地に福田道路の技術研究所がある。中堅ゼネコンの福田組の道路工事部門が独立して1970年に設立された福田道路は地元・新潟県や首都圏を中心に全国規模で道路舗装などの事業を展開している。76年には技術研究所を開設し、排水性の高い舗装や凍結抑制舗装をはじめとする新たな技術の開発を手掛けてきた。ITの導入にも積極的に力を入れ、先進的なAI技術を持つNECと共同で開発したのが、舗装損傷診断システム「マルチファインアイ」だ。
「走行する車から撮影した路面の映像をAIで解析して、ひび割れやわだち掘れなどの道路の損傷をチェックします。このシステムでは、低費用で短期間に点検できるのが特徴です」と福田道路技術研究所の田口仁所長は説明する。
市販のカメラをフロントガラスに取り付け、時速70キロ以下のスピードで走行し、路面の画像を撮影する。撮影した動画はNECの最先端のAI技術で解析し、ひび割れの比率、わだち掘れの深さを評価する。ひび割れ率が0~20%なら「I」、20~40%なら「II」、40%以上なら「III」といった具合に損傷の評価を三段階に区分。国土交通省が2016年に策定した舗装道路の修繕指針「舗装点検要領」の診断区分に沿った評価を行う。
「ディープラーニング」技術で学習
ひび割れやわだち掘れのAIへの学習には「ディープラーニング(深層学習)」という技術が活用されている。人間の脳神経細胞(ニューロン)の仕組みを模したニューラルネットワークというシステムを多層的に用いることによって、コンピューターがより高度な学習をできるようにした技術だ。
初期のAIへの学習では、画像を認識するための特徴をあらかじめ抽出する必要があったが、ディープラーニングは、事前にお手本となる画像などのデータを学習させるだけで、自ら判断モデルを生成するので、短期間に高精度で判断ができる。
このシステムを構築するのに福田道路が集めたひび割れやわだち掘れの画像は約6万枚にも上る。試作のシステムで道路を点検し、判定ランクのずれや、判定する必要があるのに判定できない損傷があれば、同様の損傷がある道路を撮影してAIに学習させた。NECの技術陣と何度もやりとりし、試行錯誤を重ねながら精度を高め、実用化にこぎつけた。
舗装道路の点検は、主に目視による点検とレーザー機器などを搭載した「路面性状測定車」による点検という2つの手法があるが、福田道路によると、目視による点検は1キロ当たり5万円、測定車による点検では同3万円程度の費用がかかるという。しかし、福田道路とNECが共同開発したこの技術は1キロ当たり9000円と測定車で実施した点検の3分の1程度の費用で、大幅に点検コストを削減できる。
2017年末からこのサービスをスタートして、全国から100件以上の問い合わせを受けているという。すでに県内2カ所の道路点検を受注するなど実績を積み重ねている。福田道路の対馬英夫事業本部技術部長は「発注者からは『通行止めの規制をする必要がないところはいい』といった評価を受けている」としている。
海野正美取締役常務執行役員は「費用面で非常に安く設定することで、自治体が道路の修繕に本格的に取り組む呼び水になってほしい」と期待をかけている。
国が舗装道路の点検を強化 自治体は…
福田道路が、このシステムを開発した背景には、国による道路の老朽化対策の本格化がある。
2012年に起きた中央自動車道笹子トンネルの天井板落下事故が発生。これをきっかけに道路を管理する自治体などにトンネルや橋梁の点検を5年ごとに実施するよう義務付けた。さらに舗装道路にもその対策を広げ、「舗装点検要領」を策定したが、100万キロを超す道路を管理する都道府県や市町村は財政難に悩まされ、なかなか本腰を入れて、道路点検に踏み込めないのが実情だ。
「舗装点検要領」策定当時の国土交通省の資料をみると、舗装道路の点検を実施している自治体の割合は都道府県で8割に上る一方、日本の道路全体の8割以上を管理する市町村の割合はわずか約2割に過ぎなかった。
「市町村の多くは財政状況が厳しく、道路修繕の費用を捻出できなくなっています。また、高齢化を背景に熟練した技術者もリタイアするなどして、点検などの人員を投入できなくなっているのです」。対馬技術部長はこう指摘する。
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