4車線を「青」で渡れる脚力を 健康長寿にスクワット 筑波大大学院の久野譜也教授に聞く

 
筑波大の久野譜也教授

 寝たきりや要介護などの状態にならずに過ごせる「健康寿命」は、平均寿命に比べ男女とも10年前後短い。その「差」を縮め、健康長寿をまっとうするために最も大切なことは何か? 筑波大大学院の久野譜也教授は「片側2車線の横断歩道を青信号のうちに渡れる足の筋力の維持」と極めて具体的に言い切る。100歳時代プロジェクト会議のヘルスケア委員会委員に就任した久野教授に筋肉と健康との関係などについて聞いた。(山本雅人)

 大腰筋が重要

 --ずいぶん具体的な指摘だ

 「信号が赤にならないうちにこのくらい歩き切れる力がないと、本人はもちろん、家族から見ても『危険だから』ということで外出できなくなる。それでさらに体が衰える。運動不足はアルツハイマー型認知症の大きな要因とのデータもある。この脚力は通常、70代前半までの人のレベルだが、人生100年が当たり前となる今後、どれだけ高い年齢まで維持できるかが重要となる」

 --そのカギは「筋肉」にあるということか

 「筋肉量は30代から落ち始め、私たちの研究では40代からは年に1%ずつ減り、特に下半身の減り方が激しい。80歳や100歳ではどれだけ減っているか、恐るべきことだが計算してみてほしい。脳卒中や心筋梗塞につながる動脈硬化の予防として、速歩などの有酸素運動が推奨されているが、筋肉増量にはあまり効果がない。筋肉の増強には『筋トレ』が必要だ」

 --有酸素運動とともに筋トレが必要だと

 「それに加え食事も大切。筋肉を作るには動物性タンパク質、つまり肉も必要だ。70代以上の人は、健康維持に重要な指標である血中のアルブミン値を改善してくれる豚肉を勧めたい。もちろんバランスが重要だが」

 --筋トレとは、どの筋肉を鍛えるのか

 「歩く速度は、歩調の速さと歩幅の大きさにより決まるが、歩幅に大きな影響を持つ『大腰筋』という筋肉がカギだ。上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉で、腰の部分の奥にあるのだが、ふだんの歩行だけでは鍛えることができない。足を引き上げる際に大きな役割を果たし、弱るとすり足になるため、小さな段差でも転倒しやすくなる」

 仲間と一緒に

 --どんなトレーニングをしたらいいか

 「効果的なのはスクワット。足を肩幅に開いて立ち、椅子に座るようなイメージでひざを曲げ体を落とし、ゆっくりと元の姿勢に戻す。これを繰り返すことで大腰筋だけでなく、太もも前面の大腿四頭筋も鍛えられる。大腿四頭筋は、座った姿勢から立ち上がる際にも大きな役割を果たすため、日常生活の質を維持するにはとても重要だ」

 --筋トレには三日坊主の人が多いと聞く

 「自然に運動してしまうような社会の仕組みも必要だ。公園などでの朝のラジオ体操をうまく活用できればよいと思う。仲間と一緒にやれば続けられるし、ラジオ体操の後、スクワットをみんなでやり、可能なら朝食も一緒にとってもらえれば理想的だ」

 --栄養状態もよくなるということか

 「今、『孤食』が問題となっている。1人で済ますといいかげんな食事になりがちで、栄養状態が悪くなる。私は、運動を継続してもらうだけでなく、そもそも健康に関心のない人をどう動かすかの研究にも力を入れており、国とさまざまな取り組みを行ったり提言をしたりしている。国民の健康寿命の延伸に貢献できれば、との気持ちだ」

【プロフィル】久野譜也

 くの・しんや 筑波大大学院人間総合科学研究科教授。同大大学院博士課程医学研究科修了後、東京大助手、米ペンシルベニア大への留学などを経て、平成23年から現職。筑波大の研究成果に基づき健康増進事業を行う、つくばウエルネスリサーチの社長も兼務。100歳時代プロジェクト会議ヘルスケア委員会委員。