【ビジネス解読】健診ビジネスの主役、「メタボ」から「快眠」へ交代

 
三菱地所が仮眠効果の実証実験に使う新本社の仮眠室(三菱地所提供)

 健康診断をめぐるビジネスの主役が、メタボリックシンドローム(メタボ、内臓脂肪症候群)から“快眠”に交代するかもしれない。企業は生産性の向上につながるとして、居眠りがご法度だった職務中の仮眠を推奨したり、社員の睡眠改善を助言するシステムを導入したりしている。いつの日か、社員の健康診断で「快眠指数」を測定する日が来るかもしれない。

 仮眠による従業員の業務効率について、5月下旬~6月下旬に検証したのが、不動産大手の三菱地所だ。同社従業員が本社内に設置された仮眠室を用い、毎日30分間の仮眠を取る期間と取らない期間を設定。それぞれの期間で毎日、(1)パソコンへのタイピングテスト(2)眠気などのアンケート(3)睡眠生体情報計測デバイス(機器)を用いた夜間の睡眠の質-を調査する。同社は検証結果を基に、仮眠室の環境改善に取り組むほか、将来のオフィスビルの商品企画に生かしていく。

 睡眠科学や快眠環境などの専門講習を受けた、寝具大手、東京西川の「スリープマスター」が提唱するのが、デスクでの昼寝だ。自社で販売している横向き寝をサポートする抱き枕を活用。デスクの椅子に座った状態で抱き枕の下部を足で挟み、上部にだきつきながら枕代わりに昼寝ができるという。睡眠時間は30分以内に収めるのが効果的という。

 ひと昔前なら、職場で仮眠すれば「洗面所で顔を洗ってこい」などと上司に一喝されそうだ。しかし、ここ数年、社員の健康管理を経営的な視点で戦略的に実践する健康経営が注目されてきた。海外では、グーグルやアップル、マイクロソフトなど米IT大手が仮眠を推奨している。日本でも、これまでプライバシーの領域として自己管理に任せていた睡眠について、企業が積極的に改善を促すようになってきた。

 企業向けの睡眠改善のプログラムを提供しているベンチャー企業のニューロスペース(東京都墨田区)は、KDDIや三井物産、東京電力グループのTEPCOi-フロンティアズ(同千代田区)などと実証実験した。プログラムは、都内の心療内科、睡眠外来のクリニックと提携して作成され、睡眠に関するトラブルを解消する。

 ニューロスペースの小林孝徳社長は、中学生の頃から睡眠に悩まされており、その経験が起業のきっかけになった。外食、IT、物流などの業界ごとや、夜勤、デスクワーク、立ち仕事などの勤務形態ごとに集めた睡眠に関するデータの収集・分析力が強みとなっている。

 快眠ビジネスが盛り上がっているのは、日本人の睡眠時間が減ってきていることがある。

 厚生労働省の平成28年の調査によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の男女(20歳以上)の割合が、15年の調査開始以降、最も高い39.5%に達した。十分な睡眠が取れない理由として、男女ともに「仕事」が挙がる。寝不足が借金のようにたまって心身に悪影響を及ぼす「睡眠負債」は29年の流行語になった。米ランド研究所によると、日本の睡眠不足による損失は年間で最大1380億ドル(約15兆5000億円)と推計されている。

 メタボが、“国民の健康指標”としての地位を得たのは、肥満の定義として腹囲を採用したことだ。生活習慣の改善の分かりやすい動機付けとなり、やせることで成果を実感できる。

 快眠ビジネスが国民に受け入れられるかどうかは、効果が見える化できるような測定基準が必要だろう。

 もちろん、睡眠不足に陥る根本的な要因を取り除かなければ、快眠商品の成果は得られない。企業は働き方改革に積極的に取り組み、従業員にとって働きやすい環境を整えることが優先だろう。

 最近では、睡眠時間や寝返りの動きなどから睡眠の質を図る睡眠計が、数千~数万円で購入できる。将来、毎日の眠りの質を指数化し、健康管理に役立てられれば、市場のさらなる拡大が期待できる。(鈴木正行)