【痛み学入門講座】メタボは大敵…肥満と痛みの関係

 

 「メタボリックシンドローム」が世間の話題となって久しい。このいわゆる“メタボ”とは、「内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性を基本病態として、脂質代謝異常、高血圧、耐糖能異常が一個人に集積している状態」である。このため、メタボの中心となるのは肥満なのである。

 特に、皮下にではなく、内臓(腸間膜)に脂肪が蓄積した「内臓脂肪型肥満」(ウエストが男性85センチ、女性90センチ以上が目安)が問題である。なお、一般的な肥満の指標として、体格指数BMI(Body Mass Index=体重キログラム÷身長メートルの2乗)がある。この指数が25以上ならば肥満と判定される。米国の調査では肥満人口は急増しており、2000年には全世界で11億人に達した(一方で、飢餓に苦しむ人口も11億人!)。

 肥満はさまざまな二次障害(肥満関連健康障害)を引き起こすが、特に心血管疾患(狭心症や脳梗塞)などが厄介だ。さらには、命の回数券とも呼ばれる「テロメア」(染色体の末端に存在するDNAの損傷を防いでいる構造物)が肥満によって短くなってしまうことも確認されている。

 さて、肥満と痛みの関係性である。結論から言ってしまうと、肥満は痛みにとって大敵だ。

肥満はさまざまな痛みを作り出し、さらに増悪させる。たとえば、ある疫学調査によれば、BMIが30以上の人は、BMI25未満のグループとの比較で「腰痛」の発症率が2倍になるという。若年者では、腰の椎間板が自身の重みに耐えかねてパンクし、椎間板ヘルニアを発症する。加齢変化が加われば変形性脊椎症、神経症状を伴う場合には脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)、との具合にである。

 股関節や膝関節の痛みもしかりである。これらの関節は“荷重関節”とも呼ばれ、常に体重という大きな荷重に耐えているのである。「変形性膝関節症」での膝の痛みは、体重に耐えかねてすり減った軟骨が悲鳴をあげているのだ、と考えていただきたい。

 人工膝関節置換術の適応となる人の実に70%以上が肥満の患者さん、さらに肥満がある場合には、この人工膝関節の耐用年数も低下する。なお、これらの関節の痛みは移動機能が低下した状態(“ロコモティブシンドローム”)の原因となり、さらなる肥満を引き起こす。

 周囲に“メタボ君”呼ばわりされて憤慨しているあなた、まずは痩せましょう。ただ腰や股関節、膝関節に痛みを自覚されている方が、ダイエットのためと歩き回るのはいけません。カロリー制限以外に手立てはありませんので、悪しからず。(近畿大学医学部麻酔科教授 森本昌宏)