「道路課金」高いハードル 鎌倉市の渋滞解消なるか 地元合意がカギ
年間2千万人を超える観光客が訪れる神奈川県鎌倉市。国内有数の観光都市を悩ませているのが、休日を中心に発生する交通渋滞だ。渋滞緩和の“切り札”とされるのが市内に流入する自動車に課金する「課金型ロードプライシング」制度。松尾崇市長は2020年東京五輪・パラリンピック開催に伴う観光客増を見越して、「平成32(2020)年までの実施を目指す」とするが、関係省庁や近隣自治体との協議は進まず、ハードルが高いのが実情だ。国内初の道路課金の行方は不透明さを増している。
10月中旬の日曜日正午ごろ、鎌倉市中心部のJR鎌倉駅付近から同県藤沢市の江の島近くを通過して同市中心部に向かうなか、渋滞に巻き込まれた。
休日は速度半分
普段なら20分程度で到着するはずが、この日は約40分の道のりだった。住民にとってはちょっとした買い物に行くにも、渋滞が大きな足かせになり、正直疲れたというのが実感だ。
鎌倉市内の寺社でアジサイが見頃を迎える観光シーズンまっただ中の6月、国土交通省が市内を走行する自動車の渋滞状況を調査したところ、休日の市内中心部では平均時速18.1キロで、神奈川県平均(同34.7キロ)の約半分に落ち込んでいることが分かった。急ブレーキの回数は周辺地域の3、4倍に上り、さらに交通事故の発生件数は県平均の2倍以上に及ぶなど、市民に対するしわ寄せが顕著になっていることも判明した。
鎌倉は山と海に囲まれており、中世に山を切り開いて作られた「切り通し」が今も残るなど、独特で狭苦しい地形が渋滞の要因ともなっている。市民を対象にしたアンケートによると、約4割の市民が「交通渋滞の問題は耐え難いほど深刻」と答えている。
市の調査では、休日に市内へ流入したり、市内を通過したりする車両は約2万5千台に上る。渋滞を解消するには台数を約半分に削減する必要があり、その解消策として期待されているのが道路課金だ。
AIでデータ収集
国交省は昨年9月、鎌倉をAI(人工知能)やICT(情報通信技術)などを活用した先駆的な渋滞対策実施を目的とした「観光交通イノベーション地域」に指定。市中心部に分析装置を2カ所設置し、ETC(自動料金収受システム)を搭載した自動車の台数や位置、速度に加え、どのようなルートを通行したかなどの情報を収集している。これらの情報は通行量抑制に向けたデータとして活用する方針だ。
国交省によると、ETCを搭載していない車両に対しては、ナンバープレートの読み取り装置を設置することで徴収逃れを防ぐことも可能で、技術面では多くの課題がクリアされているという。
一方で高いハードルとなっているのが、課金システムのあり方と市民や周辺自治体との地元合意だ。課金資金の使途について市は「公共交通の充実や道路整備に充当したい」とするが、国交省によると、一般道に課金する場合、「税金として位置づけるのか、使用料とするのかは、決まっていない」という。
観光客減少も?
地元の合意形成に関しても難問が山積だ。市内中心部を訪れる市民に対しても課金するのか、また周辺自治体から市内を通過する場合、課金の対象となるのかなど、議論は深まっていない。藤沢市や同県逗子市など隣接自治体には「何の情報ももたらされていない」(関係者)のが実情で、鎌倉市に対して詳細な説明を求めることも予測される。
また、観光客の減少につながりかねず、商工業者から反対の声が上がる可能性もある。市では8年に道路課金の実施検討を始めたが、商工業者から反対を求める陳情が市議会に提出され、頓挫したこともあるからだ。
市交通政策課では「国とも連携しながら、実証実験の検討を進めたい」としているものの、五輪開催まで約1年半に迫っており、スケジュール的には厳しさを増している。市では今年度中にシンポジウムを開催したうえで、来年度に市民説明会を実施して住民合意を取り付け、実施に踏み切りたい構えだが、「あまりに拙速過ぎる」との批判は免れず、道路課金の実現は困難を極めている。
課金型ロードプライシング 交通渋滞の解消に向けて、特定の道路を通行する車両に料金を課して交通量を抑制する政策で、シンガポールや英・ロンドンなどで導入されている。シンガポールでは1975(昭和50)年に導入されて、交通量が約2割減少した。2003(平成15)年に導入したロンドンでは、バスの待ち時間が大幅に短縮される効果が出ている。日本では外国人観光客が多い鎌倉市と京都市で導入が検討されている。
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