【介護と福祉のこれから】「畑のにおいが懐かしい」農業と介護の連携に注目

 
複数の事業所の利用者が集まって縁側でおやつの時間を過ごす=岩手県八幡平市の特定非営利活動法人「里・つむぎ八幡平」

東北地方会場でも職場体験スクール

 介護の仕事をより魅力的に伝えるためのプロジェクト「これからの介護・福祉の仕事を考えるデザインスクール」が東北ブロックの会場でも順調に進んでいる。参加者は、農業と福祉が連携するNPO法人(特定非営利活動法人)「里・つむぎ八幡平」(岩手県八幡平市、高橋和人理事長)でインターン(職場体験)を行った。

 スクール受講者の一人で、東日本大震災の被災地を支援する団体職員、笠田一成さん(36)は宮城県岩沼市で牧場「いわぬまひつじ村」を運営。津波被災地区でヒツジ2頭を除草目的で放牧し、地区名の玉浦にちなんだ「たま」と「うら」は次第に人気者になった。今は3ヘクタールの敷地に放牧場、農園、広場、ドッグランが整備されている。

 笠田さんは「過去の記憶に思いをはせながら新しい価値を生みたい。障害者の就労支援を始める予定で、半農半介護を学んで運営に生かしたい」と語った。東北ブロックの次回スクールは「介護の日」の11日に開かれる。(牛田久美)

 高齢と障害の「まるごとケア」“半農半介護”で地域再生模索

 人口減少と高齢化が進む地方都市では、これまで制度上区分されてきた高齢者福祉と障害者福祉のサービスを一体的に提供する機運が高まっている。農林水産業などの衰退を背景に、介護や福祉が農業と連携する“農福連携”や“半農半介護”の取り組みも注目される。最前線を訪ねた。

 “境目”ない事業

 「里・つむぎ八幡平」が運営する「まるごとケアの家」では、認知症の高齢者と障害者が一緒に日中を過ごす。この日は昼食後、障害のある女性が食器を運んだり洗ったりするかたわら、認知症の高齢女性が茶碗(ちゃわん)を拭き始めた。

 理事長の高橋さんは、「おばあちゃんたちは障害のある人を気にかける。障害のある人は、自分たちも仕事ができると分かり、役に立ちたいと思う。目に見えない相乗効果がある」という。ここでは当初から、両者が一緒に暮らす「共生型グループホーム」など“境目”のない事業を目指してきた。人口が減る地域で高齢と障害を厳密に区分すると、将来性がないと判断したからだ。

 農業で生き生き

 今は農業との連携も模索する。市の高齢化率は約38%で、施設周辺には空き家や耕作放棄地が目立つ。「土地を活用し、ちょっと元気な高齢者と障害のある人が一緒に働き、いずれ賃金を得られるといい」と、農業を行う法人を立ち上げた。水田ではコメ、畑ではニンニクやズッキーニ、ナスやピーマンを作る。事業所で利用し、販売もする。

 介護サービスを利用する高齢者らは農家の出身者が多く、身近に農業があるだけで生き生きとする。水田の様子を気にして、「雑草を取らないと」「そろそろ刈り入れだ」と、つい口が出る。天気が良い日は畑に出かけ、気が向けば夕食用の収穫も。認知症で要介護2の女性(87)は「ニンニク畑の土のにおいが懐かしかった。もう作業は無理だが、おいしいお米をいただいています」という。

 地方都市では農林水産業が衰退し、地域経済で医療や介護事業の比重が増している。だが、その構造では地域経済の活性化は望めない。経済をうまく循環させる「農福連携」の取り組みが注目される。

 若者を呼び込む

 高橋さんも、介護される人がサービスを受けるだけでなく、できる範囲で生産活動にも携わる“半農半介護”を目指す。

 介護職の佐々木諒太さん(26)は「ここでの介護は利用者と距離が近く、自由度が高い」と言う。専門学校時代に介護研修に通った特別養護老人ホームは一日の予定がびっしり。仕事に魅力を感じられず、一時は介護以外の就職先を探した。

 だが、知人の紹介で里・つむぎを知って就職。ここで看取(みと)りも体験した。死を前に、入居者と家族が過去の隔たりを埋めていく過程を見て、人生の節目に立ち会う介護職のやりがいも知った。「気づいたら7年目。面白い仕事だと思う」(佐藤好美)