サイバーエージェントにDMMも 大手ITが新卒の一律初任給を止める理由

 
新卒の一律初任給を廃止する企業が増加。新入社員には朗報?不安?(写真はイメージ。提供:ゲッティイメージズ)

 新入社員の時、もらった初任給は同期と変わらず一律の額だった人は多いのではないだろうか。日本企業で新卒は基本的に即戦力というより、育成期間中と扱われてきたからだ。しかし最近、大手ITのエンジニア職を中心にこの常識が崩れつつある。サイバーエージェント、DMM.com、メルカリなどが相次ぎ新卒の一律給与を廃止している。

 入社時から人事評価や給与に差をつけると聞くと、「新卒社員同士でがむしゃらに競わせたり、できの悪い社員の給与をカットする目的か」と思うかもしれない。だが、これらの企業が目的に掲げるのはあくまで「優秀な人材の確保」。特に人手不足で争奪戦が激しくなっているエンジニア市場で少しでも優位に立ちたいという狙いがある。

 年俸で100万~200万円差がつく場合も

 サイバーエージェントは2018年4月から入社するエンジニア職を対象に、それまで一律と定めていた新卒の初任給制度を廃止した。他の先輩社員と同様の、能力に応じた給与体系に変更する。

 同社では年功序列制度を採っておらず、従業員の能力に応じた等級に当てはめて給与を決めている。例えば下から3番目の「S3」だと、上司から指示された仕事を十分にこなせる1人前のエンジニアとしてのスキルが求められる。入社すぐのエンジニアはすべて「S1」だが、すぐに能力や経験に応じた人事評価がなされ、人によっては1年のうちに等級が何度も上がったりする。こうして初任給の年俸に差がつく仕組みという。

 同社の新卒エンジニア職の最低年俸は450万円だ。執行役員で技術政策室長の長瀬慶重さんによると「新入社員によっては年俸で100万~200万円の差がついている場合もある」。ただ、働き始めて間もなく実績も乏しいはずの新入社員の能力をどのように評価するのか。

 現在、サイバーエージェントでは内定者の半数程度が同社のインターンシップを経験している。「1~2カ月の就業型インターンを経験してもらう中で、学生のエンジニアとしての技術力やコミュニケーション能力を社員が見極める」(長瀬さん)。この時の評価が入社後の人事査定に大きく影響する。

 実際に入社した新卒社員からの反応は上々のようだ。江頭宏亮さん(26)は芝浦工業大学大学院の修士課程を卒業後、18年4月にエンジニアとしてサイバーエージェントに入社した。同社の一律初任給の廃止制度を最初に経験する世代に当たる。

 「エンジニアが会社を選ぶ時代」

 大学院1年生の時に同社の短期のインターンシップを経験したことがきっかけで入社することに。「社員の人と話していて人柄や技術力にひかれた。何より、年功序列が無いことが大きかった」(江頭さん)。入社後はエンジニアの即戦力として活躍し、わずか半年の間に等級が上がった。「サービスをちょっと使いやすくする地味な担当なのに、会社はきちんと見てくれているのがうれしい」。

 江頭さんは入社前の働きぶりについても大きく評価されていた。内定後に同社傘下のAbemaTVで、動画サービスのシステムを改善する担当としてアルバイトをしていた。もともと技術力や業務遂行能力に定評があり、入社時には既に高めの評価をもらっていたという。「努力して実力を付ければ評価される制度。自分はやりがいを感じられる」と語る。

 長瀬さんによると、サイバーエージェントがこの給与制度を採ったのは江頭さんのような優秀なエンジニアの採用強化が狙い。「超売り手市場の今、会社がエンジニアを選ぶのではなくエンジニアの方が選ぶ時代になっている。今後もこの流れは加速していく」。

 加えて特に最近の若いエンジニアは、SNSや業界の勉強会を通じていろいろな会社から転職のオファーがよく来るという。「若いエンジニアは年収をとても意識している。たとえ学生であっても、既に高い能力を持っている人に報いないのはおかしいと考えた」(長瀬さん)。

 「新卒を1000万円待遇にする可能性も」

 DMMも19年4月入社のエンジニアの新入社員について一律初任給を撤廃する。年収は最低408万円と規定しているが、人事部長の林英治郎さんによると「実は天井は定めていない。現実にはまだいないが、1000万円もらっているうちの社員と同じ実力の学生が現れれば同じ待遇にするだろう」。

 技術系に限定したのは「エンジニアの能力は可視化しやすいため」(林さん)で、総合職についてはまだ検討していない。ただ、サイバーエージェントと違ってDMMはようやく18年夏からインターンシップを本格的に始めたばかりで、学生の技術力を測るデータを自社では持っていない。

 メルカリでは新卒全員が対象

 そこで今回の採用では、学生の構築したサイトや自分で書いたコードをアップできるプラットフォーム「GitHub」に彼らが投稿した作品などを見てエンジニアとしての実力を判断した。内定を決めた学生には具体的な金額を提示してオファーをかけた。「明らかに飛びぬけている学生には社員と同じレベルの給与を出すようにしている。エンジニアの技術力は仕事をすればすぐ分かるもので、(入社後に)整合性が取れなくなったら調整もする。新卒社員の間でもめることはないと思う」(林さん)。

 一律初任給の撤廃は現在、技術力が測定しやすいエンジニアに限定している企業が主流だが、新卒全員に適用した企業もある。メルカリは18年4月以降に入社する新卒向けの新たな給与・人事制度「メルグラッズ」を導入した。エンジニアやデザイナーだけでなくプロデューサー職も対象となる。

 実は同社では年功序列だけでなく、給与の等級制度も設けていない。給与はあくまで市場での適正な水準と本人の能力や成果を照らし合わせて決めている。新卒を評価するに当たっては、やはり自社や他社でのインターンシップ経験が大きいポイントという。

 採用担当マネジャーの小山浩平さんは「入社直前まで学生は成長している可能性があるので、入社前に(内定をオファーする際に出した)金額の見直しすら行っている」と明かす。現状、特に新入社員から不満の声や問題は発生していないという。

 一律の初任給を止める企業の施策は、新卒と先輩社員や中途入社組を分け隔てなく評価する流れにもつながる。今回はエンジニア中心に広がっているこの取り組みだが、一括採用の慣習などこれまで「新卒」を特別扱いしてきた日本の採用文化に与える影響は、決して小さくない。