1000万円かけてたった1人採用の企業も 海外エリート大学生を狙え!
大手企業やメガベンチャーが、海外に出向いて新卒採用を積極的に進めている。国内の少子化や人手不足が慢性化しており、優秀な学生を日本市場のみからは採用しきれないと判断したからだ。
対象は日本での就職に興味のある海外の外国人学生と、現地に留学している日本大学生の両方だ。海外の学生と日本企業をつなぐサービスに人気が集まり、メルカリのように新卒の大半を外国人が占める企業も登場した。国内にいる外国人留学生の採用が進まないなど保守的な会社もまだ多い一方で、国籍を問わず海外の新卒市場に目を向ける企業が増えている。
ヴァイバート・那尚・ウィルソンさん(26)は2018年10月、人材紹介を手掛けるメガベンチャーのレバレジーズ(東京都渋谷区)に入社した。新規事業のマーケティングを担当している。カナダと日本のハーフだが日本育ちの日本国籍で、高校までは埼玉に住んでおり英語も話せなかったという。
進学時にカナダのアケィディア大学に留学し、ビジネスにおける対人関係を5年間学んでいた。現地ではプロ卓球選手を務めたほか、木こりや料理人など20ほどのアルバイトを経験した。現地では当初はそのままカナダで就職しようと思い、既に数社の現地企業から内定をもらっていた。
17年11月に米ボストンでディスコが開催した現地留学生向けの巨大合同説明会「ボストンキャリアフォーラム」でレバレジーズの面接を受けた。同社の執行役員、藤本直也さん(27)のプレゼンを聞いて「年も自分とほとんど変わらないのに経験を積んでいると感じた。待遇や社名と関係なく一緒に働きたい」と思い立ち入社を決めた。
欧陽雪さん(22)も今秋にレバレジーズに入社した新入社員だ。こちらは中国・浙江省出身の中国籍で、高校卒業後は長春市にある長春理工大学に通った。専攻は日本文化で、3年生の時には岡山大学に留学していた。「競争するのが大好き」と、スピーチや面接コンテストに数多く参加した経験を持つ。
「クレヨンしんちゃん」など日本のアニメが好きで、もともと日本で働きたいと思っていた。上海で開かれた企業説明会でやはりレバレジーズの藤本さんの話を聞き、「こんなに若いのに成長して昇進できるのは魅力的。この会社ならいろんなことにチャレンジできそう」と入社することにした。今は日本語の研修中で営業を担当する予定だ。
世界進出に合わせ人材確保
現地でもハイランクの大学出身の2人を採用したレバレジーズの藤本さんによると、同社が海外での新卒採用を本格化させたのはここ数年のこと。18年秋と19年春入社予定の内定者は合計約230人で、うち40人ほどが海外の大学に通う学生だ。大半が日本人留学生だという。
ただ、同社は海外の大学出身者を特に評価して採用しているわけではないという。「国内は人手不足のため、採用する学生の質を妥協したくなかったので海外からも採ることにしただけ」(藤本さん)。また同社は今後、5年間でインドや南米など世界25拠点に人材系のサービスを展開するため、進出先の国の言葉が話せる人材を狙った。
パナソニックや経済産業省も海外で採用
海外の大学生をターゲットにした人材紹介サービスも活況だ。人材大手のネオキャリア(東京都新宿区)は日本人留学生と海外の外国人大学生の両方を日本企業とマッチングさせるサービスを、それぞれ展開している。
日本人留学生向けは、米国ならマサチューセッツ工科大学といった欧米やアジアのエリート大学の学生と企業を引き合わせる「BALJOB」だ。参加した企業・団体はパナソニック、サントリー、経済産業省など有名大手を中心にのべ約200社・団体。中には約1000万円のイベント参加費を払ってニューヨークに出張し、学生たった1人を採用した大企業もあったという。ネオキャリアの担当者は「企業は優秀な留学生を採用することで組織に新しい血を入れたいのでは」とみる。留学生は日本を離れており就活の方法が分かっていない場合も多く、うまくマッチングする機会にもなるという。
ただ同社の担当者によると、こちらのエリート留学生を狙った紹介サービスは10年前には既にスタートしており、人気も安定しているという。むしろ今急速に伸びているのが、アジア各国の大学に通う日本語を話せる外国人の若者を日本企業と引き合わせるサービス「Bridgers」だ。
対象となるのは中国や韓国、台湾など10カ国の大学生。BALJOBほどのエリート層ではないが、日本でいうと有名私立くらいのクラスの学生が集まっている。利用する日本企業は2年間でのべ約400社に上る。ライトオンなどの大手小売りや飲食、ホテルといったインバウンド需要が高かったり、人手不足にあえいだりしている業種が多い。就職する場所の7割は東京以外で、人手が回ってこない地方企業のニーズも賄っている。
学生側からも毎月3000人ほどが応募してくる人気で、開始2年で約1600人を日本企業に送り込んだ。ネオキャリアは現地で1社単独の集団面接会を開き、あらかじめ担当者が面接対策を施してある外国人学生と企業の人事を引き合わせる。うまくいけばその場で内定から学生側の承諾まで完了する。同社の担当者によると1回の面接で内定率は平均53%、そこからの学生の承諾率は93%に上るといい、日本の就活よりはるかにスピーディーだ。
ライバルはアリババなど世界のIT大手
新卒の大半を海外の大学出身者から採った企業も登場した。メルカリでは、18年春と秋の入社した新卒75人のうち44人が、インドをはじめとする海外10カ国の大学から来た外国籍の学生となった。多くはエンジニア職だ。インドであれば、国立で理系の名門校として知られるインド工科大学をターゲットに学生を集めた。
同社の採用担当マネジャーの小山浩平さんは「日本という母集団の少ない中で新卒を取り合うだけでなく、世界中の優秀な人を採っていく。海外の優秀な学生は今後うちの競争相手となるグローバルカンパニーも採りたがる人材。自然と競争力の強化につながる」と指摘する。
実際、小山さんが面接で会った海外の学生には、中国のアリババグループといった新興のIT大手を併願していると明かした人もいた。日本の学生の感覚ではよくある「メルカリのユーザーなので興味を持った」という志望動機より、IT系のメガベンチャーという立ち位置を気に入って受ける若者が多いという。
日本の老舗企業よりもむしろ海外の有名ITとの新卒争奪戦に飛び込むメルカリ。そこで同社が強みにしているのが、外国人社員に日本語能力を求めない点だ。仕事では日本語の使用を強制せず、英語でのやりとりのみもOK。既に社員の1割は30カ国から集まった外国人が占める。社内には翻訳専門のチームがあるほか、既に英語だけで仕事している部署も少なくない。
今回メルカリが採用した外国籍の新入社員にも日本語能力は不問で、面接は英語で行った。全員、日本語は基本的に話せない。「むしろ日本人の方が英語を自発的に勉強するようになってきた。今後もこの採用方針は続けていく」(小山さん)。多くの日本企業が狭い国内での新卒の取り合いに躍起になる一方、世界規模での高レベル人材の獲得競争が日本でもリアルなものになってきている。
関連記事