新卒が定着しない…宮城・気仙沼の中小企業が採った秘策とは
新卒採用で都市部の大企業よりさらに苦しい戦いを強いられがちなのが地方企業だ。多くがいわゆる中小企業のため知名度でどうしても劣るほか、多くの若者が大学進学で都市部に出てしまい、そのまま戻らないケースも多い。しかも、さらに深刻なのが新卒社員の定着率の低さだという。
そこでリクルートキャリア(東京都千代田区)が進めているのが、地方の中小の新卒採用を支援するプロジェクト「マチリク」だ。1社ごとで行っていた採用を街の企業群が共同で進めることで、効率化やノウハウの蓄積を狙う。加えて、小さな職場で同期もおらず孤立しがちな新入社員に、企業の垣根を越えた街ぐるみの研修を施すことで「地域の同期」を作り、定着を促しているという。宮城県気仙沼市での活用例を聞いた。
社外にいる「地域の同期」と絆深め
熊谷未悠さん(23)は4月、気仙沼を中心にガソリンスタンド運営などを手掛けている気仙沼商会(宮城県気仙沼市)に入社した。高校まで気仙沼で育ち、その後仙台にある大学に進学。就活では最初、仙台の広告代理店から内定をもらっていたが「本当にここでいいのかな」と思い直すように。地元で働きたくなって気仙沼で就活を再開し、今の会社に入ることになった。
今は社員の保険の手続きや社長秘書といった事務を担当している。同期は10人程いるが、ほとんどがガソリンスタンドなどの現場勤務で顔を合わせることは少ない。普段接している先輩や上司は40歳以上がほとんど。職場ではよくしてもらっているが、「私は優しくされすぎているのかも」と不安に思うことも少なくないという。
そんな時、気軽に話せるのが同社も参加するマチリクの研修で出会った、他社にいる「地域の同期」だ。マチリクに参加している気仙沼の企業の新人は、入社前と入社3カ月、6カ月後に一堂に会して研修に参加している。熊谷さんも他の新人たちと打ち解け、懇親会でLINEを交換して友達になった。
「入社して大学時代と環境が変わった。普段同世代と話せないのはやっぱり不安。(他社の新人と)会社でこんなことがあったとか他愛もない話をしたり、悩みを打ち明けたりしている」(熊谷さん)。大学時代の友人の多くは仙台や関東で就職したが、自分は気仙沼で働けて満足しているという。
リクルートキャリアでマチリクを担当するメディアプロデュース統括部事業推進部の原智子さんによると、このプロジェクトの前身は2015年にスタート。東北・三陸エリアの釜石市、大槌町、16年からは気仙沼市も入り、地域の中小の新卒採用・研修を支援する取り組みとして始まった。
中小で孤立しがちな新人の定着促す
原さんによると当時、同社の営業担当者が三陸の中小企業を回っていた際によく聞いたのが「新入社員の離職率が高い」という悩みだったという。「地元の大学も県内で就職する学生がすぐ辞めてしまうと話していた。大事な学生をそんな企業に紹介したくないと、大学のキャリアセンターも学生に地元での就職を促していないようだった」(原さん)。
実際、大卒ではなく高卒が対象だが、宮城県が13年に県内の約1700の事業所に行った調査では10年度に採用された社員の離職率は38%と、いわゆる「3年3割」より高めの結果となっている。
そこでリクルートキャリアは震災復興支援の一環という意義も持たせつつ、地域の中小が一体となって採用活動を行い新卒の定着率を上げるプロジェクトを提案した。その後釜石市と大槌町の企業との契約は終了したが、気仙沼では18年から「マチリク」という名称に変わって継続している。
気仙沼では当初の16年では10社、18年は13社が参加している。内容は「リクナビ」や企業説明会などを通した採用活動の支援や企業担当者に対する研修、そして熊谷さんらが受けた新卒向け研修だ。社員の少ない地方の中小では専属の人事担当者がいないことが多く、採用のノウハウを持っていないことが多いことからリクルートキャリアの担当者がレクチャーしている。
今の学生の考え方や就活市場の状況について説明したり、「連絡してきた学生にはすぐ会いに行った方がいい」と言ったアプローチのコツも伝授したりした。結果、3年間で大卒、専門学校卒、高卒合わせて全社で33人の採用に成功した。
ただ、原さんが強調するのは採用数よりも定着率の高さだ。9月時点で辞めたのは3人のみ。そこで寄与しているのが、冒頭の熊谷さんが受けた「地域の同期」で集まる研修だという。内容は社会人としての決意や目標を表明したり、働くうちに生じた気持ちの変化を説明するといった大手企業ではオーソドックスなもの。ただ、「気仙沼では規模が小さいため1社で何人も新卒を採用していない企業が多い。同期という関係がなかなか築けないため、ここでつながりを育んでもらう」(原さん)。
企業側にも「受け入れ方」の研修
企業側に対しても、4月に経営者と新人育成の担当者をセットで呼んで「新人の受け入れ方」を研修した。新人に3年後どのようになってほしいのか、そのために今どんな仕事をふるべきかといったテーマについて議論させた。
「例えば今の学生は、昔より厳しく叱られる経験が少ないまま育っている傾向がある。先輩社員とは価値観のギャップが確実にある」(原さん)。特に地方の中小は新卒を採る頻度が多くなく職場に若者が少ないため、このギャップはどうしても埋まらないままになっているという。
熊谷さんが入社した気仙沼商会の高橋正樹社長も「うちは毎年新卒を採っていたが、採用自体何年ぶりという会社もあった。受け入れ側を教育しないと来てもすぐ辞めてしまうことも考えられた」と打ち明ける。「マチリクは街を挙げての採用。こういうやり方に手応えを感じている」と話す。
マチリクは現在、気仙沼だけでなく岩手県久慈市、兵庫県豊岡市の企業でも実施している。都心部の有名大手や先進的企業の事例がよく取り上げられる新卒採用。一方で東京一極集中が加速する中、地方にどう若者を呼び寄せ定着してもらえるかも無視できない問題だ。
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