女性の離職防止で企業連携 夫が転勤、介護…転居先の仕事紹介

 
藍沢証券加古川支店で働く原田千明さん(右)=兵庫県加古川市

 夫の転勤や結婚、介護に伴う転居で、仕事を辞めざるを得ない女性を減らそうと、営業エリアの異なる企業間で人材を相互に受け入れる動きが広がっている。対象者は引っ越し先で経験を生かして働くことができる。元の会社に戻ることも可能で、企業は人材をつなぎ留める効果も期待。提携関係にある企業同士や業界横断で、連携が進む。

待遇維持したまま

 「『やっぱり女性が辞めるのか』と悔しかった」。山口県を主な営業地域とする西京銀行本店(同県周南市)勤務の原田千明さん(30)は昨年、結婚を機に退職すると上司に切り出した際の気持ちをこう振り返った。製薬会社勤務の相手は兵庫県で働き、同居のための苦渋の決断だった。

 所属部署で営業成績トップだったこともある原田さんは将来の幹部候補生だが、西京は兵庫県に拠点がない。上司は、提携先の藍沢証券(東京)への転籍を勧めた。

 平成27年に業務提携した両社は、結婚などで引っ越す職員の転居先に相手企業の拠点があれば、職員として働けるよう紹介する制度を設けた。収入や役職などの待遇を維持したまま転籍でき、いずれ元の会社に戻ることも可能だ。

 原田さんはこの制度を利用し、昨年12月に藍沢証券加古川支店(兵庫県加古川市)で働き始めた。「一緒に暮らすことで結婚したという実感も湧く。証券会社の業務から学ぶ点も多く、いずれ銀行に戻ったときに役立つ」と笑顔で話す。

移っても即戦力

 業界で連携する試みも。東京、名古屋、大阪、福岡の私鉄11社は6月、配偶者の転勤などで営業エリア外に引っ越す職員を相互に受け入れる「民鉄キャリアトレイン」を立ち上げた。

 呼び掛けたのは東京急行電鉄(東京)。人材戦略室の西本雅彦課長補佐は「総合職の若手女性が昨年、夫の転勤で退職したのに危機感を持ったのが制度設立のきっかけ。業界共通の頭の痛い悩みだった」と説明する。

 各社に声を掛けると、「そういう仕組みを待っていた」という反応が相次いだ。鉄道業務には共通点が多く会社を移っても即戦力となることが制度設立に弾みをつけた。

 2つの制度とも女性の利用が多いと見込まれるが、男性も利用できる。

 先駆けは27年4月に地方銀行64行で始めた「地銀人材バンク」で、約150件の実績がある。事務局の千葉銀行(千葉市)の担当者は「利用者の大半は20代の女性だが、最近では60代の男性が介護のために制度を利用した例もあった。発足3年半で利用の幅が拡大している」と胸を張った。

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 ■社会的損失は大きく

 慶応大の太田聡一教授(労働経済学)の話「夫の転勤などで女性が仕事を辞めた場合、引っ越し先で似たような処遇の会社に移ることは難しいのが現実だ。経験を積んだ人材が結果的にパートタイマーや無職を選ばざるを得ず、社会的な損失は大きい。最近では男性と同等の収入を得る女性のキャリアが途絶えると、家計にも無視できない影響が出る。今後は優先順位の低い転勤辞令を取りやめるなど業務の見直しが必要だ」

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 ■早期離職、大卒は微減31.8%

 厚生労働省は、大卒で就職後3年以内に仕事を辞めた人の割合が、平成27年3月の卒業者では前年比0.4ポイント低下の31.8%だったと発表した。高卒も前年比1.5ポイント低下の39.3%で、4年ぶりに40%を下回った。景気回復で就職率が高水準となった時期で、厚労省は「自分に合う企業を選べる学生が増え、早期離職の抑制につながったのではないか」としている。

 大卒の産業別離職率は、宿泊業・飲食サービス業が49.7%と最も高かった。次いで教育・学習支援業46.2%、生活関連サービス業・娯楽業45.0%だった。企業の規模別で見ると、従業員1000人以上では24.2%だったのに対し、5人未満では57.0%と、規模が小さいほど早期離職の割合が高い傾向にあった。