パワハラ対策を企業に義務付け 厚労省が法案提出へ 実効性課題

 
職場のハラスメント対策をめぐる法改正などについて議論された労働政策審議会の分科会=19日午後、東京都港区

 増え続けるパワハラ被害の声に押され、厚生労働省は企業に防止対策を義務付けることを決めた。就業規則などで対応方針を明記させる。セクハラ対策も強化し、社外との間で起きた事案について企業の取るべき対応を示す方向。厚労省は、来年の通常国会で関連法案の提出を目指す。

 強い抑止力を期待

 規制する法律がない現状からは一歩前進するが、より強い抑止力が期待される「行為自体の禁止」は見送られる。労働組合はセクハラ対策も「踏み込み不足」と歯がみしており、実効性の確保に課題を残した形だ。

 「パワハラ対策は喫緊の課題だ。行為の禁止は一体いつ議論するつもりなのか」。厚労省が法改正の骨子案を提示した19日の労働政策審議会の分科会。労働者側である連合の委員は語気を強めて政府の見解をただした。

 連合が禁止規定にこだわるのは、国際労働機関(ILO)が来年にも、ハラスメント規制条約の採択を予定しているからだ。検討段階の報告書では加盟国に「ハラスメントを禁止するための国内法令を採択すること」が求められており、連合は今回の法改正がその好機になると考えた。

 だが分科会の経営者側や有識者委員は、行為禁止は時期尚早だと主張した。特に中小企業団体の代表は「パワハラの定義すら明確になってない。まずは周知、啓発を図るべきだ」と法律に基づく規制そのものに反対した。

 厚労省が労使の折衷案として提示したのが、企業の防止対策義務化だ。指針で定めるとした項目の多くは、男女雇用機会均等法に規定されたセクハラ対策と同様の扱い。初めての法制化といっても目新しさに欠ける印象は否めない。

 相談件数10年で3倍

 厚労省によると、全国の労働局などの窓口に寄せられた「職場のいじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は、過去10年間で約3倍に急増。賃金などの労働条件に関する相談を上回って最多になった。自殺、鬱病といった悲惨な事態に追い込まれる労働者も相次いでいる。

 先月、求人サイト運営会社の元従業員の男性らが、社長に繰り返しパワハラを受けたとして、会社側に損害賠償を求めて提訴した。男性らは社長から「生きているだけで迷惑」などと日常的に人格を否定されたと主張。同僚の女性は2月に自殺した。

 原告側の代理人を務める深井剛志弁護士は「この事件は極端な事例だが、パワハラ被害は非常に多く、企業の取り組みだけでは実効性に疑問がある」と指摘する。今回の骨子案を一定の前進と評価しつつ「厚労省は労働者の視点に立って、行為自体を罰則付きで禁止してほしい」と話す。

 セクハラに関しても労働者側が求めていた行為自体の禁止が見送りになり、反発の声が上がった。自身がセクハラに遭った経験から、被害者支援に取り組む労働組合「パープル・ユニオン」の佐藤香執行委員長は「被害者が求めてきたこととは大きな隔たりがあり、肩透かしの内容だ。問題が次々と起きている現実を見ても、現行の法律に限界があることは明らか。この対策でセクハラを防げるのか疑問だ」と話す。

 骨子案には、取引先など社外との間で起きたセクハラ事案で企業の対応を明確化することが盛り込まれた。

 労働問題に詳しい新村響子弁護士は「セクハラに関する訴訟は訴えること自体が難しく、労働局の指導も被害者の救済につながっていない。社外の対応を規定する点は評価できるが、もっと踏み込んだ法整備を求めたい」と強調した。