【サスティナブルにっぽん~宮城県】常識覆す新時代のトイレ空間を演出 藤村由紀子
温水洗浄便座、衣ずれや排泄時の音を隠す擬音装置など、斬新なアイデアで世界的に評価が高い日本のトイレ。近年、新時代の到来を告げるようなトイレが登場したと聞き、現場に向かった。
訪れた先は仙台空港カントリークラブ。コースの途中に設置されている個室をのぞくと…。琴のBGMが流れる和風の空間に、苔玉などの装飾品、葛飾北斎の浮世絵が施されたトイレが配置されている。別の個室ではシャンデリアが輝き、優雅なクラシックが流れ、美しく華やかな花のトイレが出迎えてくれる。
装飾施工技術を開発したのは仙台市泉区の泰光住建だ。「アート」とトイレのイタリア語「トイレッタ」を組み合わせて「アートレッタ」と名付け、販売している。
アートレッタ誕生の背景には東日本大震災がある。赤間晃治社長はライフラインの復旧にあたり、排泄設備を補修したときは、英雄のように感謝された、という。それでも、混乱の中で数多くの人が使用したせいか、すぐに、汚れが目立ったり、詰まったりして、使用できなくなってしまう。すると、トイレに行きたくない、行かないようにしようと水分を控え、体調を崩してしまう被災者が増えてしまった。
清潔なトイレを維持するにはどうしたら良いか。汚れが目立ちやすい真っ白なトイレでなく、「汚したくない、汚せない」と思わせるデザイン性のあるトイレにしたらどうか。
しかし、球面や曲面の組み合わせでできる便器をきれいに装飾することは極めて難しいのである。図柄を印刷したフィルムを張り付けようとしても、図柄を保とうとすれば、フィルムにシワができ、シワにならないようにすると図柄がゆがむ。試行錯誤のすえ、今まで誰もやったことがなかった便器全体を特殊フィルムで加工する技術を生み出した。
アートレッタは国内外で注目され、さまざまな賞も受けた。海外からの問い合わせも多い。ただ、海外では規格上の制約やアフターケアの課題がある。現在はスイスの大手トイレメーカーと手を組み、フランスを販路としたプロジェクトが進んでいる、という。
アートレッタ設置後の反応はどうなのか。きれいに使う人が増えたのはもちろん、便器の蓋の破損が減った。また蓋にもデザインが施されているため、利用者が蓋を閉めるようになり、ウイルスなどの拡散防止にも役立っているという。
現在、トイレのプロジェクションマッピングの構想も進んでいる。座ったときに正面と側面の壁にグラフィックを投影し、エンターテインメント、PRなどを展開、トイレ空間自体を「サプライズが起こる場所」にしたいと語る赤間さん。きれいに使う、壊さないといったモラルや美の習慣、そして良い衛生環境を仙台から世界に発信していきたいと、さらなる挑戦が続いている。
【サスティナブル】
1992年の第1回地球環境サミットで初めて提唱された「持続可能な発展」という考え方。以後、国や産業の発展には自然環境への配慮が不可欠であることが世界的に広く浸透している。本コラムでは、サスティナブルな社会を目指す日本各地の取り組みを紹介する。
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ふじむら・ゆきこ 宮城テレビ出身。現在、国際会議などの日英司会やナレーション、通訳などを行うバイリンガルアナウンサーとして活動中。
【局アナnet】 2004年に創設された、全国の局アナ経験者が登録するネットワークサイト。報道記者やディレクターを兼ねたアナウンサーが多く、映像・音声コンテンツの制作サービスを行っている。自社メディア「Local Topics Japan」(http://lt-j.com/)で地方のトピックス動画を海外向けに配信中。
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