「サービス残業は当然」「お前はバカか」 怒号飛び交う“ブラック企業”体験イベントが怖かった

 
イベントの模様。かなりリアルな演出だ

 イベント企画などを手掛けるベンチャー「株式会社人間」(大阪市)は11月22日、過重労働やハラスメントが常態化している“ブラック企業”の就労体験ができる企画「THE BLACK HOLIDAY」の模様を報道陣向けに公開した。参加者が上司・先輩役による暴言などに耐えながら、架空の企業の新入社員として約1時間働くプログラムで、「本当にいい職場とは何か」を考える機会を提供する目的がある。(濱口翔太郎,ITmedia)

 一般向けには23日に開催。パワハラを行う社員をプロの役者が演じるほか、劣悪な環境で働いた経験のある社会人から寄せられた実体験を基に脚本を制作するなど、内容にリアリティーを持たせた点が特徴だ。

 報道公開では役者のほか、女子大学生(20代)、会社員男女(ともに20代)、Web製作会社で代表取締役を務める男性(30代)など5人の一般人が“新人役”として参加し、理不尽な働き方を体験した。本記事ではその模様をお届けする。

社訓の読み上げ強制、朝礼は給料発生せず

 「あなた取材の人? ちょっと遅いんじゃないの」--。時間通りに会場入りしたのに、受付係の女性が厳しい態度で接してくる。女性は劇団員で、もちろん本気で怒っているわけではないが、定時より早く出社することを強要する“ブラックさ”を報道陣向けにも再現する念の入れようだ。

 女性に謝罪して記者席に着くと、目の前で、架空の健康器具販売会社「スーパーミラクルハッピー株式会社」を舞台にした“新人研修”が始まった。オフィスの壁には「残業なき労働に価値なし」などと恐ろしい標語が貼られている。

 新人たちの1日は朝の掃除から始まる。床のごみを取り除くために粘着ローラーをひたすら転がす作業だ。少しでも疲れた様子を見せると、「手を動かせ!」と怒号が飛んでくる。先輩たちが出勤してきた際のあいさつが小さいと「しっかり声出せよ」と叱られる。

 掃除が終わると自己紹介の時間だ。上司から「この会社でかなえたい夢を言え」と指示され、1人ずつ前に出て「人々を健康にしたい」などと大声で発表するよう強制される。目標が上司の考えと違った場合は、「なめるな!」と何度も叱られる。

 次は朝礼。新人は「私たちは人類の健康に寄与します。スーパーミラクルハッピー」という、ちょっと恥ずかしい社訓を大声で読み上げるよう強要される。

 すると、先輩の1人が朝礼中にウトウトしてしまう。残業続きで1週間家に帰れていないとのことだ。これに激高した上司は「会社に寝泊まりしているなら、1週間分の光熱費は給料から天引きだ!」と怒鳴り、机を思い切り蹴飛ばした。

 朝礼が終わると、「朝礼は仕事じゃなくてウオーミングアップだから、給料は発生しない」との発表があり、先輩が新人のタイムカードをまとめて打刻。これに対する反論も当然許されない。

「髪形が変わったことに気付かない」で激怒

 始業時間になると、営業研修がスタート。取り扱う商材は、1本30万円のマッサージ機「ツボ押しX」。新人はこれを独居老人に訪問販売し、だまして買わせるテクニックをロールプレイングで練習しなければならない。

 「おばあちゃん、肩があまり上がらないなら、これを使えば元気になるよ」。先輩が手本を見せると、新人もそれにならう。動きが遅いと「お前はバカか」「殺すぞ!」との声が容赦なく飛んでくる。営業成績の悪い先輩が、売り上げを増やすよう上司に叱られ、実母に商材を買わせる場面や、給料は完全歩合制で、成績が悪いとゼロ円になると明かされる場面もあった。

 しばらくたった頃、ヒョウ柄の派手な服に身を包んだ社長夫人(副社長)が登場。新人たちは礼儀正しくあいさつをしたが、なぜが副社長は激怒。「髪形が変わったことに気付かなかった」ことに腹を立てたそうだ。このエピソードも実体験に基づいて盛り込んだという。

内部告発の犯人捜し

 副社長の機嫌が戻ると、新人のプレゼン大会が始まる。効率よく営業するアイデアを企画書にまとめ、社長・副社長の前で発表するというものだ。ここでは、新人が良い企画を発表すると、上司が「実は自分が考えた」とうそをついて手柄を横取りしたり、新人の企画書を上司がビリビリと破り捨てる場面があった。

 そうこうしているうちに、社内に慌ただしい雰囲気が漂い始める。社員の誰かが内部告発をしたため、労働基準監督署が調査に来るとの情報が入ったのだ。上司たちは慌てて証拠隠滅を図り、「何か聞かれたら、『新人だから分かりません』と答えろ」と強い口調で繰り返した。

 調査を何とかやり過ごすと、社内では内部告発者の“犯人捜し”が始まる。上司たちが「連帯責任だ! 全員減給30%にするぞ!」と脅しをかけると、耐えきれずに、ある女性社員が名乗り出る。「こんなのおかしいです。辞めさせてください」と泣く女性に対し、上司は「チクるなんて最低の人間だ。辞めてもいいが、ノルマ未達成の罰金300万円、迷惑料200万円を払え」と冷たく言い放つ。結局、女性は会社に残る道を選んだ。

サービス残業は当たり前

 本来はこれにて終業だが、「社会人はサービス残業は当たり前だ!」と上司が主張したため、急きょ研修に関する反省文を書く時間が与えられた。書き終わった新人は前に出て、「不慣れなことも多く、大変申し訳ございませんでした」「私に足りないのは気合いでした」などと大声で読み上げた。

 ようやく仕事は終わりか--と思われた時、上司が倉庫から大量の便箋と封筒を運んできた。そして、「これから手書きのダイレクトメールを書け。全部終わるまで帰るな」と指示。困惑する新人を残して先に帰ってしまった。

 以上が「THE BLACK HOLIDAY」の全シナリオだ。

参加者「怖かった」

 パワハラの悪質さとリアルさに加え、役者の好演も相まって、イベント中は参加者が緊張感のある表情を浮かべていたほか、報道陣にも張り詰めた空気が漂っていたのが印象的だった。

 体験を終えた参加者に話を聞くと、IT業界で働く20代男性は「フィクションだと分かっていても、怒鳴られるのはプレッシャーを感じたし、怖かった。他人が怒られているのを見るのもつらかった。これが実体験に基づいているのも恐ろしい。こういう職場が実際にあるということを知れてよかった」と話した。

 Web製作会社で代表取締役を務める30代男性は「私は過去にこういう体育会系の職場に勤めていた経験があり、当時を思い出した。今は独立して経営する側となり、午後5時で帰れる社風にするなど、働き方改革を進めている。ただ、厳しい職場にも得るものはあったし、現代の働き方は“ユルい”ような気もする」と複雑そうに語った。

役に入り込みすぎて異様な空間に

 演出・脚本を考案し、上司役も演じた俳優の益山貴司さんは「閉ざされた空間で、他人を怒鳴ったり否定したりすることを繰り返していると、不思議と気分が高揚してしまい、アドリブで攻撃的な演技をしてしまった。演出上、一般参加者が怒ってしまうのではないかと心配だったが、みんなも不思議と役に入り込んでいて、本気で反省文を書いている人もいた」と、異様な空気が広がっていたと告白。「脚本のもとになった企業では、こんな状況が365日続いていると考えると恐ろしい」としみじみと話した。