【IT風土記】長野発 遊休資産を村おこしの武器に 「シェア経済」に挑戦する北相木村

 
北相木村の名勝「三滝」の一つ、大禅の滝。冬は幻想的な氷瀑に(北相木村提供)

 長野県の東部、群馬県上野村と県境を接する北相木村は千曲川の支流、相木川の谷間にある小さな村だ。村の面積は東京都世田谷区とほぼ同じだが、そこに暮らす住民の数は780人(2018年10月現在)。村内にコンビニエンスストアも、信号もない。井出高明村長は「何もないことが村のいいところ」と胸を張る。

 親元を離れた子供が山村の学校で学ぶ「山村留学」や、都市部から地方に移り住む「Iターン」に力を入れ、今では住民の2割が移住者だ。豊かな自然、手厚い行政サービス…。都会にあるものはないが、都会にはないものを「武器」に村の活性化に取り組んでいる。

 そんな村の、新たな「武器」にしようとチャレンジしているのが、シェアリングエコノミーだ。

 地域活性化のツールに

 「東京電力が隣村の南相木村に発電用ダムを建設する際、現場事務所として村に設けた施設を2005年のダム完成後、譲渡されたのですが、なかなか有効な使い道がみつからなかった。この施設をシェアオフィス、シェアハウスなどに有効利用することを目指している」と、北相木村経済建設課の渡辺秀正課長は語る。

 東電から譲渡を受けたダム工事の現場事務所は、相木川のほとりに事務棟と住居棟の2棟あり、今回、シェアリングエコノミーで事務棟の活用策を探る。事務棟は2階吹き抜け構造で、1階の広さは180平方メートル。ちょうどバレーボールのコートくらいの面積だ。メゾネット式の2階に36平方メートルほどのスペースがある。企業の研修会や大学の合宿などでの利用を想定。研修会場などを探している企業や団体などに利用を呼びかけている。「村民が空いた時間の労働を提供するレイバーシェア(共有型労働力)によって施設を運営する仕組みも取り入れた」と経済建設課の菊池忠水課長補佐は話していた。

 この事業の仕掛人は長野県企画振興部の坂口秀嗣・情報化推進担当部長だ。「ここ数年、シェアリングエコノミーが全国で加速度的に広がりを見せており、長野県内でも何らかの形で取り組めないか内部的に検討していた」。ちょうど総務省がシェアリングエコノミーを活用して地域課題の解決や地域経済の活性化を図る地方自治体を支援する「シェアリングエコノミー活用推進事業」の公募があり、「長野県としてもトライしよう」と、施設の有効活用を模索していた北相木村に話を持ちかけたという。

 地元シンクタンクの長野経済研究所、サービス提供するためのシステム基盤を提供するNECも参加。4者が連携した形で総務省の公募に応募し、モデル事業の一つに採択された。

 「シンクタンクとして自治体向けに先を見据えた支援が大事になっている。今回の事業を通じて、他の市町村にも有意義な提言ができる貴重なチャンス」と長野経済研究所調査部の玉木壮太主任研究員は今回の取り組みに参加した理由を語る。NECは、シェアリングエコノミーサービスのプラットホームを提供。会員管理と複数のサービスを提供するシェアリング管理の2つの機能を持ち、高いセキュリティーが確保されたシステムで、今回のサービス以外のさまざまなシェアリングサービスが導入された場合にも対応できるようになっている。

 拡大するサービス

 「車が駐車場に置きっぱなし」「実家が空き家になった」。そんな遊休資産を借りたい人、利用したい人に有償で提供することで有効活用し、保有の負担を軽減する。一方で、利用する側は自分で資産を保有せずに割安で利用できる。サービスをスマートフォンで探し、電子決済で支払いを済ませる。インターネットを通じて気軽に利用できるところがシェアリングエコノミーの市場を広げている。ITが生んだ新しいサービスだ。

 地域活性化の有効なツールとして国の関心も強く、総務省では今回採択した14件のモデル事業の成果や課題を整理し、全国の自治体への展開を考えている。特に今回の事業は過疎に悩む中山間地のチャレンジだけに総務省地域力創造グループ地域政策課の東宣行理事官は「人口が少なくなり、自治体職員も少なくなると、自治体が支援する『公助』が厳しくなっている。その中で、共に助け合う『共助』によって、地域内の資源をうまく活用する北相木村の事業は全国的なモデルになり得るのではないか」とその動向を注視している。

 地域の課題を解消

 実証事業は12月20日までの期間限定。施設の整備や需要調査、実施後の検証作業などがあるため、施設の稼働は3カ月弱に限定されたが、来年4月以降の利用者も募集中だ。11月上旬までの段階で利用申し込みは4件。認知度が不足しているほか、需要が見込める夏場を過ぎていたこともあり、利用は低調だ。井出村長は「研修の利用があるが、それだけでは施設の有効利用にはつながらない。研修などの一時的な利用をうまく恒久的な利用に結び付けたい。まずは慌てずにじっくり様子を見ていきたい」と話す。

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