【痛み学入門講座】骨粗鬆症対策は納豆食べて日光浴
身体(からだ)は正字で「體(からだ)」と書くように、本来、強固で豊かな骨によって支えられている。しかし、残念なことに骨は老化とともに徐々に脆(もろ)くなる。この脆さが正常範囲を超えて進行するのが「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」である。骨粗鬆症とは読んで字のごとく、骨が「粗(あら)く」、大根に「鬆(す)」が入ったような状態になることを指す。
この骨粗鬆症を発症している患者さんは増加の一途にあり、圧倒的に中高年の女性に多い。これには女性の骨が元来華奢(きゃしゃ)であることや、閉経後の女性ホルモン(エストロゲン)の分泌低下などが影響している。また、副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬の使用を余儀なくされている人、甲状腺機能に障害がある人でも本症を生じやすくなる。
骨粗鬆症になると、さまざまな部位で骨折を起こしやすくなる。「脊椎(せきつい)圧迫骨折」「橈骨遠位端(とうこつえんいたん)骨折」「大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)骨折」などが多く、圧迫骨折の発生頻度が高い。たとえば、尻もちをついた後に急激に起こった背部~腰痛は、尻もちの衝撃で背骨(椎骨の椎体)が瞬間的に潰れて、骨折自体、その周囲にある神経を刺激することによる痛みを引き起こすのだ。一方、慢性の背部痛や腰痛(“いつのまにか骨折”)の原因は背骨の変形である。脆くなった背骨が日常動作により徐々に潰れて、身長が縮んだり、背骨が曲がって前屈みの姿勢=脊柱後弯(せきちゅうこうわん)=となる。前屈みの姿勢では、上半身を持ち上げようと背中の筋肉が異常に緊張し、筋肉内の血の流れが悪くなって、神経が悲鳴をあげるのである。
予防が重要になる。40代までは、カルシウム(1日600ミリグラム)をきっちりと摂取することである。しかし、残念ながら閉経後の女性では、カルシウムを摂取してもあまり意味がない。この場合はビタミンK2である。ビタミンK2が骨を丈夫にするとの研究成果が明らかにされ、ビタミンK2を豊富に含む納豆を食べることが勧められている。さらには日光にあたり、散歩などの軽い運動を習慣づけることも大切である。
では、骨粗鬆症と診断されたらどうすればいいのだろうか。現在はさまざまな薬物が開発されているので、ご心配には及ばない。骨形成を促進するビタミンK2、活性型ビタミンD3製剤に加えて、骨吸収を抑制するビスフォスフォネート、カルシトニンやエストロゲン受容体に作用する製剤など数多くのものが用いられている。
さて、無重力空間では、骨の形成低下、吸収増加が起こる。スペースシャトルに搭乗した日本人女性初の宇宙飛行士・向井千秋さんの骨は、2週間の宇宙生活で、2・4%も減ったそうだ。来るべき宇宙旅行時代に備え、納豆を食べ、日光を浴びながらの散歩に出かけようではありませんか。(近畿大学医学部麻酔科教授 森本昌宏)
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