切り開いた道は後進に譲り、自らは荒野を歩く 「ドラクエ」前プロデューサーが考える組織論

 
PlayStation 4版「ドラゴンクエストXI過ぎ去りし時を求めて」のバトルシーン(c)2017 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

 累計7600万本以上の売り上げを誇る国民的ロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト(以下、ドラクエ)」シリーズ。このうち、「ドラクエX」と「ドラクエXI」の2作続けてプロデューサーを務めたのが、スクウェア・エニックス取締役の齊藤陽介さん(48歳)だ。「ドラクエ」以外にも、新興作品「ニーアオートマタ」でも350万本以上の売り上げを達成し、日本を代表するゲームプロデューサーの1人といえる。

 そんな齊藤さんだが、「ドラクエXI」では自身のほか、30歳前後の2人の若手プロデューサーを据えたことで話題を集めた。また、2018年8月25日には、48歳の誕生日をもって、6年続いているオンラインゲーム「ドラクエX」のプロデューサーを引退した。なぜ、「ドラクエ」のプロデューサーに若手を据え、後進に道を譲ったのか。

 「ドラクエ」を後進に譲る

 --齊藤さんは昨年8月に「ドラクエX」のプロデューサーを自ら引退され、後進に道を譲りました。現在はVチューバーの3Dアイドルユニット「GEMS COMPANY」のプロデューサーなど、新しいタイトルを手掛けています。なぜ、自ら「ドラクエX」というビッグタイトルを離れたのでしょうか。

 「ドラクエX」の「冒険者の広場」というコミュニティーサイトにも書きましたが、自分が30歳を過ぎたときに、会社の中で「上がつかえている感」が気になり始めたのが原体験としてあります。もちろん「ドラクエ」のプロデューサーのまま居続ければ、ある意味では安定して働くこともできますし、ライフワークとしてさらなる何かを得ていたのかもしれません。しかし、それでは自分がかつて「違和感」を感じていた状況と同じになってしまいます。

 プロデューサーとして、自分の部下や開発の現場で頑張っているスタッフたちのキャリアパスも強くイメージする必要があると思いました。「ドラクエX」は運営開始から満6年がたち、既に「ドラクエX」の各セクションのリーダーも世代交代をしていました。だから「プロデューサーも交代しよう」と思い至ったわけです。

 --とはいえ「ドラクエ」はブランド力もあり、ご自身が長年支えてきた巨大プロジェクトですよね。それを譲るのは勇気がいることだったと思われます。どのように後継の組織作りを進めていったのでしょうか。

 プロデューサーの交代そのものについては2、3年ぐらい前から具体的に考えていました。もちろん「誰でもいい」というわけではないですから、半年ぐらい時間をかけて、まずは適した人材がいるかをずっと考えていましたね。その過程で、プロデューサーに適した人材が見つかったので、1年半ぐらいのりしろを設けて、チームとして新しい体制を作り上げていきました。

 ゆりかごから墓場まで

 --企業のトップが長年その地位を降りずに不祥事が起きている中、次世代や組織のことを考えて行動されたのは素晴らしいと思います。その後、どのように新しいプロデューサーを選んだのでしょうか。

 新しくプロデューサーに就任したのは、青山公士というプログラマー出身者なのです。青山は「ドラクエX」のプロデューサーに就任する前にも「テクニカルディレクター」という要職に就いており、一定の経験はありました。彼の長所は常にユーザー目線に立ちながら開発とゲームの両方をマルチタスクで見られるところです。

 ただ、プロデューサーという立場になると、ゆりかごから墓場までそのタイトルを見なければなりません。マーケティングやプロモーションにも責任を負わなければなりませんが、青山にはもちろんそのような経験はありませんでした。初めは彼を、開発の総責任者である「開発ラインプロデューサー」にして、外向きな業務の経験がある別な担当者と2枚看板で進めてもいいのでは、と話していたのです。ですが、結局は青山が「両方やらせてほしい」言ってきて、決断をしてくれたので、任せることにしたのです。

 --「ゆりかごから墓場まで」という言葉がありましたが、そもそもゲームプロデューサーとはどんな仕事なのでしょうか。

 端的にいえば、プロデューサーというのは「作品」ではなく「商品」を作る人だと考えています。ディレクターはアートとしての「作品」を作り上げることに8割ぐらい考えていき、最後に売り物となる「商品」の部分を2割ぐらい考えるという意識を持てばいいと思っています。一方、プロデューサーは逆です。「商品」8、「作品」2ぐらいの意識で見る必要があるのです。

 だからプロデューサーは、「利益貢献をする」という目線に最初から立たないといけないのですが、ゲームのプロデュースって変な話、「一か八か」みたいなところがあるんですよ。というのも、現在のゲーム開発には数年単位で時間がかかります。プレイステーション4で出すような高画質高精細のゲームになると、特に時間がかかりますね。ということは、プロデューサーは、現在ではなく数年後のトレンドを予測して、それを当てなければいけないのです。

 「作品」として面白いものを作る、ということはある意味狙ってできる部分もありますし、当たり前にやらなければならないことだと思います。その一方で、少なくとも数年先に売れる「商品」を作り続けるということは、とても狙ってできるものではありません。もしそれがずっとできる人がいたら、それはマーケティングの域を超えた、天才というか超能力者なんじゃないかと思います(笑)。

 --プロデューサーの育成というのは難しいのですね。

 昔のファミコンゲームや、1世代前のスマートフォンゲームのように、少人数かつ短期間で制作できるゲームが主流であれば、それはそれで経験は積めるでしょう。ですが、すぐに競争が苛烈になり、じっくりと腰を据えて経験を積めるような環境にはなりません。そう考えると、当社の「ドラクエ」や「ファイナルファンタジー」という人気タイトルは、若い人たちが経験を積み、次のステップに進むために勉強をする場として、実は最適だと考えています。もちろん、若い人なら誰でもいいという話ではなく、何らかのプロジェクト経験があり、さらにこれから会社を担っていく層という意味です。

 自ら後進に道を示す

 --ただ、一般的には基幹事業の統括にベテランを据え、若手には新規事業を任せるのが定石のようにも思われます。

 確かに新しいことを作るのは、若い人たちに任せがちだと思います。しかし、まだ自信のない若者にいきなり最前線に立たせ、右も左もよく分からないところを開拓しなさいというのは、実は簡単ではないのです。そこで夢破れてしまい、せっかくの才能が次に続かなくなってしまうことを、私は望んでいません。

 むしろ私がいま関わっている「GEMS COMPANY」のような新規事業こそ、ベテランが後進に道を示すために、私のような人間が自分の手でやるべきだと考えています。「若いんだから柔軟な発想で挑戦してみなさい」と口で言うのは簡単です。ですが、それは経験を積んできた、われわれ「おっさん」たちのほうが、できることが実は多いのですよ。

 --基幹事業を若手に担わせるメリットはどんなところにあるのでしょうか。

 まずビッグタイトルを担う際には、「商品」として売らなければならないというプレッシャーが強くあります。しかしその一方で、知名度もあり、固定ファン層もいるので安心感があるのも確かなのです。「商品」として考えなければならないことが、新規タイトルよりは少ないのです。あとは純粋にどうすれば面白いものが作れて、大きな開発組織を回して「商品」に作り上げていくか……。このような環境こそが、これ以上ない育成の場だと考えています。そしてこうした最高の場が、当社には何タイトルもあります。

 --確かに、「ドラクエXI」では齊藤さんのほかに、30歳前後の2人の若手プロデューサーを据えたことで話題を集めました。

 「ドラクエXI」はプレイステーション4版とニンテンドー3DS版の2種類があるのですが、それぞれに30歳前後の若いプロデューサーをつけました。そしてこの2つをまとめる感じで私もプロデューサーを務めたのですが、あくまでこの3人の関係は並列です。普通に考えれば私がプロデューサーで、この2人をアシスタントプロデューサーにするのが一般的だと思いますが、私はそれではダメだと考えました。

 「アシスタント」という名前が付いてしまうと、自分の裁量のない部分で「やらされ感」がどうしても見えてきてしまうからです。大変だと思いますが、「何かあったら自分が責任を取るから、しっかりとプロデューサーとして立ち回りなさい」と話をして、「ドラクエXI」の体制は始まりました。

 --「何かあったら責任は取るから」という言葉は素晴らしいですね。以前『半沢直樹』というドラマで「部下の手柄は上司の手柄」というせりふが話題になりましたが、日本の大企業では縦割りの弊害がいまだに残っているように思われます。なかなかそんなことを言ってくれる上司はいないですね。

 私にとっては「それが普通かな」という感じです。結果、その育成も兼ねてやってきた結果が出たので、「ドラクエXI」の海外版や、ニンテンドースイッチ版も若いプロデューサーに一任しており、今に至ります。

 やる気とは「長時間携わること」ではない

 --後任選びの際には、何を重視しているのでしょうか。

 能力的なものも大事ですが、一番は「やる気」ですね。ただ、「やる気」というのは、「長時間携わる」という意味ではないのです。客観的に見て、限られた時間の中で「上手に時間を使えるかどうか」、ここが重要です。

 「やる気」が無い人はだらだら仕事をすると思うんですよね。限られた時間の中で最適な答えを出し続けられる人は、「やる気」があるから、それができるのではないでしょうか。ですから、時間の使い方が優秀な人は、「やる気」もあるし能力もあると判断しています。

 特に、クリエイティブな仕事というのは、頭の中で新しいものを考えているだけで、実際には何も実行していないのに、「俺は仕事をしている」と思いがちなのです。もちろん0から1を生み出す作業は、とても大変です。ですが、有限な時間の中で自分のすべきことをきちんと整理ができて、アウトプットを出し続けられる人はやっぱり優秀だと思いますね。

 --齊藤さんは「出たがりおじさん」とも呼ばれているそうですが、実は組織全体のことや、次世代のことをとても深く考えていらっしゃると思いました。ここまで若手の話が出ていましたが、ご自身でチームを作るときに、何を大切にしていらっしゃいますか。

 一番大切にしているのは「和」ですね。「和」が乱れるといいものにならないからです。やっぱり向いている方向がバラバラだと、どうしても最終的に形になるものが面白くならないのです。

 私はもともとエニックスという会社にいたのですが、03年にスクウェアと合併後には、モバイルゲームに携わりました。当時NTTドコモによるi-modeアプリ版の「ドラクエI」と「ファイナルファンタジーI」に携わったのですが、そこで初めて旧エニックスと旧スクウェアのスタッフがまぜこぜになったんですね。

 スクウェアには、もともと自社でゲームを開発する文化があり、社内に優秀な開発スタッフが大勢いました。一方のエニックスは、社内にいるのはプロデューサーだけで、開発は社外のスタッフに外注していました。

 つまり合併によって社内と社外のスタッフが初めて出会ったわけです。このとき、毎日のようにスタッフを飲みに連れて行ったり、飲めない人はバスケットボールを一緒にやったり、人気ゲーム「モンスターハンター」を皆でやったりしながら、チームを一つにまとめていこうとしたのを覚えています。

 文化の違いを乗り越えるために

 --昨今ではM&A(合併・買収)を経験した企業も増えていますが、よく企業文化の相違が問題になります。異なる文化を持った人たちをまとめるときに、何が大切だと思われますか。

 目標を明確にすることです。「一緒に戦っていくんだ」という意識を共有し、誰を見て仕事すればいいのかを明らかにすることが重要だと思います。組織が大きくなればなるほど、1人の人間が見ることができる範囲には限界がありますから、その下にサブリーダーのような人間も増えていきます。そうなってくると、人によって言うことがばらばらになるという状況も増えます。

 それでは、自分たちがどこに向かって進めばいいのか分からなくなりますよね。そうならないように、リーダーが組織全体の目標を明確にしてあげて、その目標に向かって皆が邁進(まいしん)できる環境を作ることが重要ですね。

 --先ほど「経験を重ねてきた、われわれ『おっさん』たちのほうが、できることが実は多い」とお話になられました。今取り組まれている「GEMS COMPANY」などの新規事業を通して、いかにして若手に道を示したいですか。

 スクウェア・エニックスはゲームだけに縛られず、面白くて新しいことなら何でもやれる会社なのだと示していきたいですね。社内の若手スタッフだけでなく、これからゲーム業界やスクウェア・エニックスという会社を目指して入社してくれる人にとって、私が取り組む新規事業が一つのきっかけになればうれしいのです。ステレオタイプのゲームばかりを作っている会社よりは、「何だかよく分からないけど、新しいことをやっている会社だ」と思われたほうがいいと思っています。そして面白い人がたくさん来てくれることを期待しています。

 著者プロフィール

 河嶌太郎(かわしま たろう)

 1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。アニメコンテンツなどを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「週刊朝日」「AERA dot.」「DANRO」「Yahoo!ニュース個人」など雑誌・ウェブで執筆。ふるさと納税、アニメ、ゲーム、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。