藤田尚弓の最強の話し方

上司の「偏った記憶」が意欲を削いでいる 部下の満足度をあげる話し方とは

藤田尚弓

 気持ちがうまく伝わらない。悪気はないのに相手を不快にしてしまった。皆さんも、そんな経験はありませんか? この連載ではコミュニケーション研究家でアップウェブ代表取締役の藤田尚弓が、ビジネスシーンでの「最強の話し方」をご紹介していきます。

 第17回は、「職場の満足度を上げる話し方」がテーマ。新年は気分が変わり、新しい習慣に取り組むのに適した時期です。この機会に部下に気持ちよく働いてもらうための話し方を意識してみませんか。

 職場への満足度に影響を与える要素については様々な調査があります。経験でわかっていることも多いため、かえってどこから手をつけていいかわからないという人も多いのではないでしょうか。今回は、新年に意識したいポイントとして「印象の偏り」と「部下への無関心」に絞って解説します。

公平なつもりでも印象が偏る!?

 部下の不満を増やしてしまう要因の一つが、上司の評価です。

 「そういえば前にもこれで失敗したよな」「あいつは○○が苦手だからな」など、部下を思い出すときにネガティブなことばかりを思い出してしまうことはありませんか?

 逆に「あいつに任せれば大丈夫だろう」とよい部分ばかり思い出してしまう部下もいると思います。公平に評価をしている人でも、記憶が原因で、私たちは部下に偏った印象を持ってしまうことがあります。

部下への印象が偏る!? 「検索誘導忘却」とは

 私たちは日常の様々な場面で、記憶を呼び起こすという行為をおこなっています。このとき、ある記憶を思い出すという行為を繰り返すと、似ている別の情報が思い出しにくくなるという現象がおきることがあります。

 この現象は「検索誘導忘却」と呼ばれます。これは1994年から1995年にかけてアンダーソンらが発表した論文で示されました。

 部下Aさんの例で解説しましょう。Aさんには、数字に強い、面倒見がよい、粘り強いといった特徴があります。上司が「Aは数字に強かったな」と思い出すことを繰り返すと、その影響でAさんの、面倒見がよい、粘り強いといった他の特性を思い出しにくくなることがあるのです。

 自分は公平な評価をしているつもりでも、検索誘導忘却のせいで、部下の印象が偏ってしまうことがあります。

 プライベートでも「あなたは、いつも遅刻する」といったように、数回の失敗をあたかも毎回かのように言う人がいます。これも「記憶特性」が引き起こした印象の偏りなのかもしれませんが、改善しないと関係性が悪くなるのは誰もが想像できると思います。

 新年は、部下のネガティブ評価についてはあまり口にしないよう気をつけてみてください。評価の高くない部下にも、意識して探せば思い出しにくかった良い部分が見つかるかも知れません。

関心を持っているつもりでも伝わらない?!

 「上司の無関心」も職場への満足度に影響する大きな要因です。さすがに部下の名前と顔が一致しないという人はいないと思いますが、皆さんは部下に関心があることが伝わるような声掛けをしているでしょうか。

 筆者が2016年に行ったアンケート調査では「この一カ月で部下に関心を示した」回答した人が7割近くいたのに対し「この一カ月間で上司が自分に関心を示していると感じた言動があった」と回答した部下は5割を切るという結果になりました。

 上司は関心を示しているつもりでも、部下はそう感じない。そんな状況を変えるためにはどのようなフレーズを使えばいいのでしょうか。

今年試したい! 部下への関心を伝える質問フレーズ

 部下に関心を伝えようとするとき「褒め」を使う人が大多数かと思います。しかし、褒めは使い方が難しく、慣れが生じる、会話が続きにくいといったデメリットもあります。そこでお勧めなのが質問を使うやり方です。

(例)

・「〇〇さんは、人あたりがいいね」

→「みんな○○さんは感じがいいと言っているけど、なにか気をつけていることはあるの?」

・「○○さんに任せておくと安心だよ」

→「いつもしっかり仕上げてくれるけど、どんな段取りをしているの?」

・「今月も優秀な成績だな」

→「目標達成のために、どんな準備をしているの?」

 質問には「あなたに関心を持っていますよ」というニュアンスを伝える効果があります。また、できている部分について質問をすることは「自分がなぜうまくできているのか」と部下に考えさせるリフレクションの機会となります。

 気をつけている点を口に出してもらうと、部下は今後もそのような態度をとろうとするため、よい習慣を続けやすくなるという効果もあります。

上司との関係性は「学ぶ意欲」にも影響する

 上司との関係性は「職場への満足度」だけでなく「部下の学ぶ意欲」にも影響します。

 「向上心がない」「学ぶ意欲が低い」と感じる部下がいる場合、自分との関係性を見直してみるのも一つの方法です。

 上司の発言は、思っているよりも多くの影響を部下に与えます。新しい習慣をつけるのに適したこの時期に、印象の偏りと無関心を改善する話し方をぜひ試してみてください。

藤田尚弓(ふじた・なおみ) コミュニケーション研究家
株式会社アップウェブ代表取締役
企業のマニュアルやトレーニングプログラムの開発、テレビでの解説、コラム執筆など、コミュニケーション研究をベースにし幅広く活動。著書は「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)他多数。

最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら