【ワークスタイル最前線】企業と病院、橋渡し注力 テレワーク制度、長期入院・治療患者へ活用

 

 政府の働き方改革実行計画にも盛り込まれているテレワーク。出勤せずに自宅や出先などで働けるシステムを、長期の入院や通院を余儀なくされる患者が活用できるようにとの期待が出ている。一方で、仕事を続けられる環境の整備がかえって治療の妨げになり、心身への多大な負担を招くとの懸念も。厚生労働省は「治療が最優先」との立場を前提としながら、企業と病院、患者の橋渡し役の育成に力を入れる。

 手術後に業務報告

 がんと診断された患者は2013年は86万人で、うちほぼ3分の1に当たる25万人が20~64歳の働く世代だった。厚労省はこうした状況を踏まえ、労働環境整備に関する初の大規模調査に伴い、がんや心疾患の患者93人から入院・通院中の体験などを個別にヒアリングした。

 がんで数週間入院していたことがある50代男性は、手術後に体調が安定してからほぼ毎日、部下と連絡を取っていた。メールで業務の報告などのやりとりをし、指示を出すことも。男性は「病気になるのは、職場で責任のある地位に就いている年代のことが多い。病院に、仕事ができる環境が整備されていることは喜ばしい」と話す。

 脳血管疾患で急性期に1カ月、回復期に4カ月入院したという30代女性。病状が安定してからはリハビリの時間を除いて、病室のベッドで伝票の整理や入力などの作業を続けたという。女性の勤務先はテレワーク制度がなく、「仕事に限定せず何らかの形で社会とのつながりを持つことが重要」と訴え、同制度の普及に期待を寄せる。

 疾患別にマニュアル

 テレワークは柔軟な働き方を進める制度として注目されており、総務省の情報通信白書によると、17年の普及率は13.9%だった。

 厚生労働省が昨年12月に発表した調査によると、がんや心臓疾患などで長期の治療が必要で入院した患者1000人の8割が、その期間中に仕事の連絡や調整など「職場に関連する対応」を取った経験があった。テレワーク制度を患者らに適用することへの考え方を聞いた結果、入院・通院経験があり現在も企業に勤めている約2800人の4割が活用に意欲を示した。

 ただ、糖尿病の治療のため入院した際も仕事を続けたという50代男性は厚労省のヒアリングに「期日のある仕事で正直つらかった。手術の後はベッドでゆっくり休みたかった」と回答。「労働環境が整備されると、入院中でも会社側から安易に仕事の要請が出ることになるのではないか」と指摘する。

 がんで数日入院し、現在も3カ月に1回の通院を続けている40代女性も「病院は本来治療に専念すべき場所。仕事環境が整備されればやり過ぎてしまうのでは」と話す。

 こうした中、厚労省は企業向けの疾患別サポートマニュアルの作成を進めるほか、主治医と企業、患者の橋渡し役を担う「両立支援コーディネーター」を20年度までに2000人にする方針も掲げている。