そのスケジュール管理に無駄はないか? 手帳は選び方よりも「使い方」が大事
【働き方ラボ】2019年がやってきた。もうすぐ平成も終わり、新しい時代が始まる。ここ数カ月、何か行事があるたびに「平成最後の」というフレーズを使ってしまうことだろう。(常見陽平)
秋頃から年末年始にかけて盛り上がるのが、ビジネス雑誌の手帳特集や、時間術特集だ。「来年こそは変わりたい」という想いからだろうか。スマホの時代だが、紙の手帳の売上は好調だという。Googleカレンダーなどや、勤務先で使用しているグループウェアを利用する方も多いことだろう。しかし、このようなデジタルのスケジュール管理ツールが普及したがゆえに、紙の手帳に回帰する人、併用する人が増えているという。手軽に取り出して簡単に書けることや、情報を俯瞰できることが評価されている。
そういえば、昨年末に興味深い本と出会った。『手帳と日本人』(舘神龍彦 NHK出版新書)がそれだ。日本人がいつから、どのように予定を管理してきたかがわかる秀逸な本だ。旧日本軍の軍隊手牒から、企業が支給する年玉手帳、1980年代にブレークしたシステム手帳、2000年代に流行したほぼ日手帳や有名人手帳など手帳の多様化、さらには前述したようなデジタル手帳の台頭などを幅広く紹介し、深く分析し、わかりやすく伝えている。
手帳に悩むビジネスパーソンは多い
個人的に、大きくうなずき、膝を打ったのは、バブル崩壊、平成不況により企業が福利厚生を見直し、その結果、年玉手帳が減少したこと、それによりビジネスパーソンが自分のビジネススタイルやビジョンに合ったものを求めて手帳ブームが起こったということだ。ちょうど私は97年に社会人になったが、1、2年ほどは年玉手帳が配られていたと記憶している。これは、得意先にも配るものになっており、楽しみにしていたお客さんもいた。何より、社内で誰もが使っているものなので、同じ手帳を先輩がどう使うのかを通じて時間管理術を学ぶこともできた。
年玉手帳には企業の理念や、社内のルールなども書かれているので、ビジョン浸透の意味もあった。それこそ、電通の手帳にはつい最近まで、身震いするような「電通・鬼十則」が載っていた。90年代から現在にかけて年玉手帳が減少する中(最近は復活しているとの記述も同書にはあったが)、企業はビジョンの浸透に苦労するし、ビジネスパーソンは自分のあるべき姿に悩み、模索するという状況だったことも推察される。
さて、手帳をどうするか。毎年、手帳に悩むビジネスパーソンも多いことだろう。私も一時は悩んでいた。毎年のようにビジネス雑誌の手帳特集を読み、東急ハンズやLOFT(ロフト)、大型書店の手帳コーナーに足を運んで品物をみて、模索していた。気合いを入れて高価なシステム手帳を買ったものの、重く、リフィルを買い足すのが面倒で(そこがメリットなのに)すぐに使うのをやめたこともある。
手帳についての結論は、その時のワークスタイルに合ったものを使うこと、会社などに所属している場合は使わざるを得ないツールを使い倒すことがポイントだということだ。さらに言うならば、何を使うかよりも、どう使うかの方が大事だ。
外出する機会が多いか、社内にいる機会が多いか。ルーチンの仕事が多いか否か。社外のパートナーと働く機会が多いか少ないかなどで、ツールの選び方は変わる。また、グループウェアなど社内で使わざるを得ないツールが決まっているなら、それを使い倒すと良いだろう。手帳やスケジュール管理アプリを使うなら、それを保管する目的で選び、使うと良い。
「何」に「どれだけ」時間をかけるか
私はここ数年はGoogleカレンダーを活用している。PC、タブレット、スマホなど手元にある端末のどれを使っても閲覧できること、日、週、月、年などビューを自由に設定できるからだ。空き時間も把握しやすい。これから会う相手に最後にいつ会ったのかもすぐに確認することができる。
時間管理でこだわりたいのは、「何」に「どれだけ」時間をかけるかということだ。自分にとってもっとも大事なことに、一番時間をかけるということができているか? 当たり前のようで、できていない人も多いのではないか。意識したい。
「可処分時間」がどれだけあるのかも把握しておきたい。グループウェアでスケジュールが社内で開示される時代ではあるが、時間のへそくりも用意しておきたいところだ。
私がこだわっているのは、「時間が美しく流れているか」という点である。移動に無駄がないか、同じことが連続して疲弊しないかという点にはいつも気を使っている。アポを同じエリアや沿線に集中させるなども一つの手である。
なお、手帳はこれからの予定を管理するためのものだけではない。今までの歩みを確認するツールである。年末年始は手帳を読み返すことをオススメする。自分が何にどれだけ時間をかけたかが分かるからだ。自分の時間の無駄遣いぶりに気づくことだろう。読み返してみると、ペンディングになった案件、タイミングが合わず没になった案件に気づくこともある。これはビジネスのチャンスである。すぐにアプローチしよう。
手帳は予定だけでなく、日々の発見、気づきを記録するツールでもある。これも日毎に記録し、読み返すと効果的だ。
なお、私はGoogleカレンダーとは別に、デジタル、アナログともに、「ネタ帳」を用意している。何かで使えそうな面白い発見や、その時、考えていることをこれに書きなぐり、読み返す。ネタ帳は芸人や漫画家のためのものだけではない。ビジネスパーソンこそ使うべきだ。
このように、手帳は何を使うかよりもどう使い倒すかが大事だ。新時代の使い方として意識しよう。
【プロフィル】常見陽平(つねみ・ようへい)
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。
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【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。
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