ピラティスや朝勤行 奈良の寺開放 生き残りかけ挑む
「終活」や「墓じまい」といった新しい言葉が広まるにつれ、寺院を支えていた檀家(だんか)の「寺離れ」が加速している。存続の危機にある全国の寺が生き残りをかけて挑むのが「開かれた寺」の取り組みだ。仏教伝来の地、奈良県では現代人が求める「癒やし」を日常的に体感できる空間として、参拝者に門戸を開く寺が増えている。(田中佐和)
風情豊かな古民家が並ぶ奈良市内の一角にある興善寺(こうぜんじ、浄土宗)では、昨年11月の日曜日、不定期開催のエクササイズイベント「お寺でピラティス」が開かれていた。お香の深い香りが漂う本堂で、11人の男女が畳に敷いたマットの上で垂直に足を上げたり、腹筋を使ってV字に体を曲げたり。「仏様に足向けてええんやろか」と戸惑いの声を上げながらも、リラックスした様子で楽しんでいた。
ピラティスインストラクターの坂本あやのさん(46)は「スタジオだと『がんばらなきゃ』と力が入るけれど、お寺だとゆったりした気持ちで集中できてすっきりする」と話す。
■「レンタル本堂」も
文化庁によると、全国の仏教系寺院(平成28年)は約7万7千カ寺で、約5万5千店のコンビニエンスストアより多い。だが、世間の寺離れは深刻で、人を呼び戻すためにミラーボールを設置した本堂でダンスイベントをしたり、僧侶がバンドを組んだりと、エンターテインメント化を目指す寺もある。寺がレンタルスペースのマッチングサイトに登録する「レンタル本堂」も始まった。
興善寺のように本堂をヨガなどイベントに貸す寺は増えているが、森田康友住職(48)は「ただスペースとして提供してもだめで、仏様とのご縁を結んでもらいたい」と強調する。参加者が本堂に入る前には、手に香を塗る「塗香(ずこう)」や香炉をまたぐ「触香(そっこう)」という身を清める作法と意味を説き、実践してもらう。森田住職は言う。「人は奈良に何を求めて来るのか。私はお坊さんがお坊さんらしいことをするのが、奈良に求められる『開かれた寺』の形だと思います」
■拝む体験が人気
吐く息も白く凍る朝。ピンと張った空気がすがすがしい境内には、男女の読経の声が朗々と響いていた。
奈良市の南都十輪院(じゅうりんいん、真言宗)では毎朝8時半から、本堂で僧侶が行う朝の「勤行(ごんぎょう)」を公開している。申し込みは不要で、参加者の9割が一般の参拝者だ。
先月、朝勤行を体験した。5分間の瞑想(めいそう)の後、6人の僧侶とともに経を読み上げること約30分。最初は文字を追うだけで必死だったが、呪文のような不思議な音の羅列が次第に心地よく体に響いていく。
何度も参加しているという奈良県三郷町の会社員、林昭宏さん(51)は「お寺は敷居が高くて、葬式でもないとお坊さんとは話さない。でも、勤行はお寺と一段深いところで関わるきっかけになり、仕事で悩んだときにはお寺が相談場所になった」と話す。
どの寺も朝勤行をするが、非公開が一般的。だが奈良では数年前から一部の寺が公開を始め、現在は十輪院のほか興善寺、金峯山寺(きんぷせんじ、吉野町)、長谷寺(はせでら、桜井市)など6寺が一般参拝者を受け入れている。仏像や建築を「見る」のではなく、祈りの現場を「体験」し「拝む」というのが好評で、十輪院には連日誰かが訪れ、約30人が集う朝も。外国人観光客にも人気だ。
情報過多の社会に暮らし、一日の中で何もせずにいる時間は少ない。同寺の橋本(じゅんしん)住職(70)は「寺は神仏に願い事をしながら、自分の内面を見つめる時間になる。心を癒やす場所として存在感を高められたら」と話した。
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