中小企業への人材流動に期待 「70歳まで雇用」時代の働き方

 

 深刻な労働力不足や社会保障財政の悪化を背景に、70歳まで働ける制度づくりが進んでいる。健康寿命はほとんど変わらないのに、20年ほど前までは55歳で定年を迎え、シルバーボランティアなどとして社会活動に参加していたわけだから隔世の感がある。ただ、現在も50代半ばで役職定年や給与カット、定年後の再雇用では収入が激減し、やりがいを失ってしまうケースも多い。シニアやその予備軍は、どのような働き方を選択していけばいいのだろうか。(フジサンケイビジネスアイ編集委員・大塚昌吾)

 「就社」型の日本の終身雇用システムでは、新卒一括採用されると一斉に社内教育を受け、年功序列で賃金やポストが上がっていく。教育費や住宅ローンを抱えながら、安定収入を得て働き続けるには優しい制度だが、日本総合研究所の山田久理事は「『終身』雇用とはいえ、定年に関しては強制退職制度のような厳しい側面がある」と指摘する。人件費抑制や世代交代のため、なるべくカネをかけずに、退職金を払って辞めていただく仕組みというわけだ。

 一方で、政府の未来投資会議などの合同会議は中間報告で、「70歳までの就業機会の確保」を盛り込んだ。公的年金の支給開始年齢の引き上げは行うべきでないとしており、働き続けるかどうかの選択は自由だが、外国人の就労拡大と併せ、人手不足解消にはシニアの活躍が不可欠だ。

 パーソル総合研究所と中央大は、平成42年に644万人の人手が不足し、うち163万人をシニア▽102万人を女性▽81万人を外国人労働者▽残りをデジタル革新による生産性向上-で対応できるとする推計をまとめた。内閣府の30年版高齢社会白書でも、仕事をしている60歳以上の約8割が「70歳以上まで働きたい」、約4割が「働けるうちはいつまでも」と回答、シニアの就業意欲は高い。

 需要と供給は見合っているものの、シニアの求人は「単純労働」「低賃金」が中心で、キャリアを生かせる仕事が少ない現実がある。こうしたミスマッチを解消し、社会的要請に応える方法が、人手不足の影響が事業展開や黒字廃業にまで及んでいる中小企業での人材活用だ。

 中小企業の人手不足の状況は年々深刻さを増しており、日本商工会議所の三村明夫会頭は「シニア、女性、外国人労働者と、人材資源を最大限活用しないと日本は成長できない。意欲、能力のある元気なシニアはたくさんいる。柔軟な働き方を制度設計し、社会全体で中小の雇用につなげていくのが好ましい」と強調する。

 パーソル総研によれば、シニア予備軍であるバブル経済期入社組の40代後半から50代前半は、「大企業の大量採用で中小企業が新卒を全然取れなかった世代」で、中小企業の事業承継や経営者の片腕になるベテラン人材としての期待が高い。転職先で嫌われない「かわいいシニア」になることも大事だが、専門性と課題解決能力を持った即戦力となる人材が、第二新卒並みに求められるようになってきた。

 現役世代と違い、働き方の自由度は高い。景気動向によっては、活況が続いている転職市場が冷え込む可能性もあるが、マイナビの山田周右ミドルシニアマガジン編集長は「元の会社に残るのが嫌ならば、再雇用にこだわらなくたっていい。ライフプランを立てて、必要な年収に応じてやりたい仕事を選べばいい」とアドバイスする。

 正社員にこだわらなくても、キャリアを生かす「顧問」派遣サービスに登録したり、複数の会社で働いたり、趣味のスポーツや芸術分野に身を置いたりすることもできる。顧客の年齢層が高いサービス分野では、シニアの方が優位性も高まる。「60歳になるから」「65歳になったら」では求人の選択肢も狭まるため、一時的に年収が下がっても、50代のうちに定年制のない企業を選ぶなど、生涯年収で取り戻す道も選択の一つだ。

 「70歳までの就業機会確保」に向けて今後、法整備が進むが、人材の流動性を高める方策も急務だ。中小企業の求人は、人材サービス会社に支払う報酬が負担だったり、人材会社側も、求人頻度や規模が小さい中小企業はリピーターとしてうま味がなかったりすることがネックだった。

 だが、「ビッグデータの活用でマッチングの効率性が飛躍的に向上」(日本総研の山田氏)し、コスト面の改善も見込めるようになった。中小企業は日本の産業構造を支えるだけでなく地域の担い手であり、地方自治体や地域の商工会議所が支援体制を整え、大企業から中小企業への人の流れをつくることが重要だ。