【受験指導の現場から】なぜ高校数学で脱落するのか 中2「関数の壁」を知ろう

 
※画像はイメージです(Getty Images)

 「高校の途中で授業についていけなくなってしまった」「数Ⅱに入ってから数学の授業がほとんど理解できなくなってしまった」…同世代の生徒をもつ親なら、こういった話を耳にすることは、必ずしも珍しいことではないだろう。

 実際、筆者も似たような話を直接、間接に耳にしたことがあるし、その逆もある。

 例えば、高校受験時に本気で勉強してMARCHに準ずる高校に合格することができた元・公立中学の生徒が、高2の1学期末の定期テストで、「数学で赤点を取ってしまいました」というようなケース。

 逆に、どちらかと言えば数学が苦手だった同様の生徒が、高校に入ってすぐの1学期末の定期テストで「学年で1番を取りました」というケースもあれば、必ずしも算数は得意ではなかった生徒が中学受験をして中高一貫校に進み、高1になる頃には、「数学がいちばん得意なので、理科系にいくことにしました」といったケースもある。

米国で高2の中退が多い理由

 そんな話を何度か耳にしていたとき、米国発の興味深い調査結果を目にした。それはこんな内容だったと記憶している。

 米国のある州で、高校を2年次に中退する生徒が多いことが問題になっていた-。こういった場合、高校入学以降にその原因を見出して、その期間内で対策しようとする傾向が強いなか、「学業不振が原因で高校を中退してしまう生徒は、就学前から中学を卒業するまでのあいだ、どんな学習状況に置かれていたことが多いのか」を相関分析したものだ。

 結果として、以下の3項目が高校中退との相関関係が高いことが分かったという。

・(1)就学するまで九九を知らなかった。

・(2)小3までに読書習慣がついていなかった。

・(3)中2の数学でつまずいていた。

 その記事によると、(1)については、小学校入学直後に自分の周りに九九ができる子がいることが分かり、「自分はできない(ダメな)子なんだ」と思ってしまうことでその後の学習に支障をきたすのではないか、(2)については、問題を解くのに必要な語彙・読解力の習得に遅れが生じるからではないか、といった解説がなされていた。

 これを日本に当て嵌めてみるとどう解釈できるのか? 筆者の個人的感覚ではあるが、「高校の途中で学業不振に陥り、その後(周囲の協力やら配慮のお陰で)なんとか卒業には漕ぎ着けたものの……」といったところだろうか。

 やや余談ではあるが、元・文科省高官のなかには、「中退をなくすには数学の必修を廃止するのがいい。…その一番の要因は数学にあると思っている。…論理的思考力を養うために必要というが、それは国語の授業でやったらいい」とのたまう方もいらっしゃるようだが、ボーダーライン上にいる生徒が易きに流れるようなことをしてどうなる? 「ゆとり」は失敗だったという結論が出ているではないか。

「連立方程式」はさほど大きな問題ではない

 閑話休題。そこでだが、本稿では上記(1)と(2)には踏み込まず、専ら(3)について考えてみたい。

 まず、「中2の数学でつまずく」とは、具体的にはどの単元なのか?

 筆者の経験からいくと、生徒やその保護者から直接聞く話として、主に以下の3つが思い浮かぶ。

・(A)連立方程式の文章題で式が立てられない。

・(B)関数が解らない(この時点では1次関数)。

・(C)場合の数(確率)が苦手(場合分けがモレ・ダブりなくできない)。

 これら以外にも「合同の証明が苦手」があるにはあるが、中2の段階では証明文を一から書く問題ではなく穴埋め問題が中心であるため、上記の3つの単元に比べれば該当者はかなり少ない(はずだ)。

 まず(A)であるが、これに該当する生徒は、連立方程式に限らず、いわゆる「文章題が苦手」な生徒である。一方、実際問題として、高校入試問題で連立方程式の文章題が大問に採用されることはまれであり、高校でこの単元(文章題として)が再出するわけでもないため、大きな問題になることは少ない。

 (C)については、高校入試では必ずと言っていいほど出題され、高校での「データの分析(数I)」「場合の数と確率(数A)」「確率分布と統計的な推測(数B)」とつながっていく重要単元の入り口ではあるが、中2~高2期間全体で見れば、「関数」のほうが「確率」よりもつまずく生徒は多く、相対的に重要度も高い(ただし、確率・統計関連の単元は社会人になって以降の数学との関わりという点では最も重要な単元である)。

 つまり(B)が、中・高校を通じて数学で躓くか否かを見極める最初で最大のポイントとなってくる。

 実際、中3から高3までの数学の単元名を見渡してみると、関数 y=a●(●はxの2乗…中3)、2次関数(数I)、三角関数、指数・対数関数(数Ⅱ)、複素数(複素関数)、分数関数・無理関数・合成関数・逆関数、関数の極限(数Ⅲ)と目白押しで、微・積分ともなれば導関数を皮切りに関数一色と言ってもいいくらいである。

「関数」という概念を理解できるか

 そして問題の高2の数学であるが、見慣れている式と図形のレベルアップという感じで始まるものの、数Iで出てきた f(x) にようやく慣れたと思ったらすぐに、a + bi、cos、sin、log、Σ …と初めて見る演算子が次々と登場してくる。そんな記号(演算子)いまさら見たくもないとばかりに、ここで本稿を読むのを止めたくなるかもしれないが、もう少しばかりご勘弁を(笑)。大概、このあたりで数学にうんざりしてくるのだが、その直後、⊿x だの lim だのd/dx が出てきたところで(微分に入ったところで)とどめを刺されることが少なくない。

 翻って、(B)の「関数が分からない」をもう少しかみ砕くと、「傾きってなに?」「変化の割合って?」という状況なわけで、であったならば、「微分係数って…?」「接線の傾きって…?」となるのは至極当然である。

 そう連々考えてくると、中2半ばの時点で「関数」という概念をしっかり理解し(問題を解く上では「傾き」をうまく使えるようになり)、高1では「その概念を記号化したものがf(x)である」というステップをきちんと踏めることが、高校受験から高2までの数学を乗り切れるかどうかの眼目になってくる、ということになる。

 中2の2学期に、我が子から「関数が分からない」という言葉が出てきたら黄色信号、そのまま中3になってしまったら赤信号だ(いったん立ち止まって、集中して復習する必要あり)。

 受験直前期を除けば、中学の数学で最も大事な時期は中2の2学期~冬休みの時期であり、この時期に「関数」を攻略できれば高校受験への視界が開ける。

中2を過ぎてしまったら…親がバックアップを

 では、図らずもこの時期を逃して中2を終えてしまったならば、親はどう動けばよいのか? まさか、中学生の我が子に「関数の復習をしなさい。なぜなら…」と説得すれば本人をその気にさせることができて、やる気になってくれさえすれば本人任せでも大丈夫、などと考える親はまずいないだろう。実際には、やる気になってくれれば御の字で、そもそも自力でなんとかできる生徒はかなり限られるはずだ。

 となれば、打てる手は以下のようなものになってくる。

・(a)塾に通わせているのであれば、子供と一緒に数学担当の先生に相談にいき、計画の作成と進捗管理をお願いする。

・(b)私立中学に通っているのであれば、同様のことを担任及び数学の先生に相談する。

・(c)春休みとGWをより有意義にできるよう、3月半ばから5月半ばまでの2カ月間、短期集中的に目的に沿ったかたちで個別指導(家庭教師)を依頼する。

 それまでのあいだ塾に通っていないという場合、「春期講習会に行かせてみようか?」という考えも頭をよぎるかもしれないが、カリキュラム的に「関数に集中して取り組みたい」というニーズには適わない。通塾を始めるなら、その後も受験直前まで継続するなかで並行して上記を進める(遅くとも1学期中に解決する)ことが望ましい。

【プロフィール】吉田克己(よしだ・かつみ)

京都大学工学部卒。株式会社リクルートを経て2002年3月に独立。産業能率大学通信講座「『週刊ダイヤモンド』でビジネストレンドを読む」(小論文)講師、近畿大学工学部非常勤講師。日頃は小~高校生の受験指導(理数系科目)に携わっている。「SankeiBiz」「ダイヤモンド・オンライン」で記事の企画編集・執筆に携わるほか、各種活字メディアの編集・制作ディレクターを務める。編・著書に『三国志で学ぶランチェスターの法則』『シェールガス革命とは何か』『元素変換現代版<錬金術>のフロンティア』ほか。

【受験指導の現場から】は、吉田克己さんが教育に関する様々な情報を、日々受験を志す生徒に接している現場実感に照らし、受験生予備軍をもつ家庭を応援する連載コラムです。更新は原則第1水曜日。アーカイブはこちら