【ローカリゼーションマップ】米国と欧州を同一視してないか? 日本の企業人に「忘れ去られた視点」
先週、ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授と東京で数日を過ごした。彼はデザインマネジメント・イノベーション・リーダーシップを専門とする。彼の著書『突破するデザイン』の監修を手掛けたこともあって、いくつかの企業での講演やミーティングをぼくはアレンジした。(安西洋之)
多くの企業人と話した。そこで感じたのは、日本のビジネスパーソンに米国以外の考え方に疎いことに自身で気づいてもらうには、米国の考え方と欧州の考え方の違いを話すのが有効である、ということだ。
日本と欧州の比較だけだと、欧州と米国を一緒に見がちな人たちの目が開かれない。多くのビジネスパーソンは米国のビジネス書を読み、米国式の経営の知識に親近感をもっているので、こことの差異が分かるのが効果的だ。
もちろん欧州のかわりに中国や南米の国をおいてもいいが、それらを米国と近いとは思っていないだろうから、やはり米国と近いと想定しているラインを覆すのが良い。
その意味で、米国の大学でも研究生活をおくり、EUのイノベーション政策担当委員のアドバイザーをつとめるベルガンティが語る、米・欧の差異は説得力がある。
「米国で語られるデザインの言葉は、テクノロジーとビジネスがダイレクトに結びついている。『デザイン思考』がシリコンバレーのエンジニアによって体系化されたのも、その一例だ。他方、欧州のデザインは建築からきているから、その思想は必ず人間を起点とする。2つの異なった言語がある」とベルガンティは説明する。
米国の多くのビジネス本に書かれていることは、ビジネス上、極めて実践的である。だから日本の読者にも受け入られやすいのだが、それだけだとビジネスありきで、人間という存在が遠くなることがままある。
欧州の人々も米国の人々もとても似たこと、いや、表面上同じことを語っているように見えることは多い。しかし、もともと視野のなかに人間が占める範囲が欧州は広い。GDPR(EU一般データ保護規則)のようなルールが生まれる背景だ。
そして北欧と南欧の違いについても触れる。
「スウェーデンはデモクラシーを死守する必要がある。なぜなら気候の厳しさが近隣コミュニティの協力を必須としたからだ。今の時代はかつてとは状況が異なるが、それでも地域コミュニティを重視する傾向は変わらない。しかし、イタリアは気候が温暖だから、家族とのつながりをベースにしたコミュニティの広がりを基本とすることになる」
異なった事情を大きくまとめているのが欧州連合である。
ベルガンティがこうした内容を話すと、どこでも耳を傾けている人の表情がサッと変わる。初めて聞く話題ではないかもしれないが、日本のビジネスパーソンの間で「忘れ去られていた視点」であることは明らかである。
テクノロジーとビジネスの言語だけで頭が一杯なのだ。
欧州の文化に対して日本のビジネスパーソンに苦手意識が強いのは、何らかの劣等感の裏返しや、欧州文化を理解するのは歴史・地理的複雑さから面倒である、との思い込みであるとぼくは長い間みてきた。
だが、人間を中心に考える思想と曖昧なことを許容する文化とつきあうのが、とてつもなく不合理である、とある時代から思い始めたのではあるまいか。
少なくないビジネスパーソンは、ロジカルな考え方だけでなく、曖昧な感性的なアプローチさえも数字で把握できないかと欲をかく。正確に言えば、曖昧なことをそのまま把握することにまったく自信がないから、数字や論理に「すがる」のである。
しかしながら、「すがっている」のを自分の姿としては見たくないから、論理や数字が感性より上の存在であるかのように振る舞う。が、それが弱さの一表現であることが第三者にはお見通しだ。
現在、日本に限らずどこの国でも、合理性と非合理性の案配がふたたび見直されるタイミングに入ってきている。合理性が強く支配した後には、必ず揺り戻しとしての非合理性の再評価がある。古くは19世紀の欧州にあったロマン主義もそうだった。
この30年ほど、日本のビジネス界は西洋諸国より非合理が占めている割合が多いとの認識から、反省の気持ちをこめながら合理性の強化を図ってきた。その強化期間後半にさしかかり、世界では「非合理の合理」が強調されるようになってきたのである。
今、日本のビジネスパーソンが「欧州の言語」にハッとするのは、故なきことではない。
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【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。
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