【終活の経済学】「おひとりさま」の安心終活術(3)普段の生活に「備え」を

 
川崎市中原区で展開している「暮らしの保健室」

地域社会とのつながり深めて

 元気なうちはできることがいくらでもある。それだけ項目が増えるが、重要なのは大きく分けて2つ。今の元気をできる限り維持すること、そして万が一のときに備えて不安になることを解消しておくことだ。無理のない範囲で手を打っておこう。

 万が一のときに備えて、元気なうちから手を打っておこう、というのは終活全般の常套(じょうとう)句だ。理想はその通りだが、実際に元気なうちは「まだ早い」と思ってしまうもの。逆に百点満点の備えを目指して終活の取り組みを始めると、息切れしがちになる。とりあえずは、肩肘張らずに始められるところから手をつけたい。長期間に及ぶ対策になるわけで、いかに習慣化できるか、手間なく対策が継続できるかが鍵になる。

 まず意識したいのは、今ある生活の維持だ。今は元気でも、いつどんな不測の事態が襲ってくるか分からない。そのとき1人暮らしの場合は、異常を察知してくれる“目”が家の中にないところが、家族のいる世帯とは異なるところ。なるべく出掛けて外とのつながりを持つように努めたい。

 地域会や趣味の集まりなどの活動は、人間関係を構築するとともに、心身の健康の維持にも役立つはずだ。そうやって社会とのつながりを豊かにしていけば、生活に張りが出るし、体も動かせるし、で“一石三鳥”くらいの効果が得られるはずだ。つながりを生む窓口は、町内会の回覧板や知人からの紹介など、そこかしこにある。あとは面倒くさがらないことだ。

 一方で、このような社会との緩やかなつながりだけでは、万が一の事態になった後のことはフォローしきれない。入院や要介護、あるいは死亡ということになれば、ごく近い近親者らの助けが必要になる。そうした不測の事態に備えておくことも必須といえる。

 遠方であっても親類縁者がいるなら、日ごろから緊急時のことを頼んでおくのがいいだろう。さらに社会的なサポートは数多く存在する。地域包括支援センターなどが自分に合った対策を教えてくれるだろう。

インターネットやSNSでの交流も

 ◆働く

 最近はセカンドキャリアでバリバリ働く人が増えている。人材紹介会社で紹介を受ける場合のほか、シルバー人材センターでも経理や事務、保育サポートなどの派遣業務を扱うようになるなど職種を増やしている。また今年から、全国のハローワークで「生涯現役支援窓口」を開設する動きが広がっている。現役時代と同じように仕事をするもよし、余裕をもって取り組むもよし。ちょうどいい条件の仕事が見つけやすくなっている。

 ◆加わる

 ボランティアは人間関係の構築とともに、社会に役立っているという充実感も得られる。住まいの地域で活動している団体は、公民館や地域包括支援センター、市区町村の役所などに募集が出ている。サークルでもボランティアでも、以前はメンバーの募集は施設に足を運ばなければ見つけられなかったが、今はインターネットでも自分の暮らす地域名と「サークル コミュニティ」「ボランティア シニア」などと検索すると見つけやすい。

 ◆SNSも活用

 今は高齢者でもスマートフォンやパソコンを使って、画面上で仲間との交流を深める人が増えている。国内で参加者が多いのは、フェイスブックやインスタグラムなど。近しい人たちとグループを作ってやり取りするなら「ライン」が便利だ。

 情報を発信するためには、外で活動する必要があり、外出の動機づけにもなるだろう。慣れるとフェイスブックではイベントページを作成して、多くの人に参加を呼び掛けることができる。

 ◆相談する

 「認知症になったらどうしよう?」「遠方の家族の介護はみんなどうしているのかな?」など、自身や家族の病気の不安、介護の心配などを相談できる窓口は意外と少ない。そうした相談を歓迎する「暮らしの保健室」は草の根で広がっている。近くにあれば活用を。

「第5のインフラに」 100円で御用聞き

 電球交換、瓶の蓋開け、重い荷物の移動、草むしり…。高齢になると難しくなる、そんなちょっとした困り事を代行するサービスが人気だ。介護や医療、行政支援の隙間を埋めるような、「5分100円の家事代行」を掲げて注目されている「株式会社御用聞き」。現在、東京23区で提供しているサービスを、2018年中には多摩地域にも広げ、25年には全国の8割ほどをカバーすることを目指す。

 高齢化率が35%を超える高島平団地(東京都板橋区)が、御用聞きの活動拠点だ。夏のある日、ベランダの片づけ作業を請け負った、同社取締役の松岡健太さんに同行した。

 依頼者は1人暮らしの50代男性。障害があり粗大ごみなどを出すのが難しいと、初めて依頼した。松岡さんは世間話も交えながら、植木鉢や粗大ごみなどを仕分けていく。ごみ置き場に運ぶ作業も含め、1時間半ほど。足の踏み場もないほどだったベランダは、すっかりきれいになった。男性は満足した様子で「施設に入った母が残した衣類や家具の処理もお願いしたい」と次の相談も。帰りがけに冷えた缶入り飲料を渡してくれた。

 団地内を歩いていると正面から、松岡さんに笑顔で手を振り、近づいてくる男性がいた。80歳のこの男性は、灯油の買い出しなど何度も御用聞きに依頼しているという。「こういう人たちがいるんで助かるよ、ほんとに」と男性は話す。訪問看護ステーションなどとも連携しながら高齢者を支えていることもあり、御用聞きは地域の大切な存在となっているようだ。

 「電気、ガス、水道、通信に次ぐ第5のインフラとして、安全、安心、安価に、こうした生活支援事業を提供していきたい」と社長の古市盛久さんは語る。

 もともとコミュニティーカフェなど地域支援事業をしていた古市さんが、現在のサービスを本格化したのは16年。電球交換に訪れた高齢女性宅での出来事がきっかけだった。

 ドアが開けっ放しだったので、理由を尋ねると、インターホンが壊れたが、直し方が分からず、友人が訪ねてきたときに気づかないと悪いからと開けていたという。インターホンは電池交換しただけで直った。女性は「ありがとう、ありがとう」と大粒の涙を流し、「これでぐっすり眠れる」と喜んだという。

 この瞬間、古市さんは、ちょっとしたことでも本人には大変な困り事があることに気づかされた。家族やご近所さんに頼れなくなった超高齢社会の今、そうした困り事を解決する事業が不可欠だと考えた。

 利用料は、電球交換のような簡単な作業は5分100円で、粗大ごみ移動などは5分300円、パソコンやスマホの指導などは特別料金。65歳から75歳の女性を中心に、月に200件ほどの問い合わせがあり、リピート率は8割ほどだという。

 社員は古市さんと松岡さんだけだが、大学生を中心に120人ほどが一緒に活動している。当初は板橋・練馬両区で実施していた事業を、18年6月から23区全域に広げた。御用聞きの問い合わせは0120・309・540。(『終活読本ソナエ』2018年秋号から、随時掲載)