【教育、もうやめませんか】受験で学ぶ人は没頭で学ぶ人に勝てない 新しいサイエンススクールを創るワケ
筆者が小学生の時、ミニ四駆が流行した。大雑把に言えば電池とモーターで走る車の模型だ。ラジコンのように遠隔でのコントロールはできないためコースを走らせてその速さを競う。筆者も多くの小学生同様これに夢中になった。(野村竜一)
人は没頭からしか学ばない
夢中になったというよりのめり込んだという方が近いと思う。
自宅の部屋は工具とパーツと車体の削りカスだらけになり、睡眠と食事以外は基本ミニ四駆のことしか考えていなかった。もちろん小遣いも全てミニ四駆関連に注ぎ込まれた。人生初の徹夜もミニ四駆の重心調整時だ。スポンジタイヤの径を小さくするために、紙やすりを回転させたタイヤにあてる作業の時はちょっとした自宅内粉塵公害事件だった。
とにかく自分のマシンを速く走らせたい一心でモーターの仕組みや電池の電圧降下の仕組みも調べた。重心の概念、内輪差の仕組み、各種グリスの違いなど、図書館にも通い調べることに手間を厭わなかった。
そもそも手間だという感覚がない。楽しくてしょうがないのだから。問題発見のための対照実験のプロセスも自然と身についた。そう、今思うと誰から教わる訳でもなく多方面について探求学習をしていたように思う。
人は没頭からしか学ばない。
ミニ四駆は自分がそう考えるきっかけになった最初の体験だ。その後もいろいろなことにハマった。自分は割とハマり癖がある方だと思っている。その都度そのハマった対象を通して知識を求め吸収し、得た知識を運用する力を高めていった。少なくとも学校で習ったことよりもハマったものを通して得たことのほうが多くを覚えているし、今でもそれが役に立っている自負がある。
人は自らの興味に従う
老若男女限らず自分が出会ってきた「すごい人」に共通する何かがあるとしたらそれはまさに「ハマり込む力」だと思う。「没頭力」と名付けてもいい。興味を持ったこと、好きなことにとことんハマりこむ人々は多くの場所で高いパフォーマンスを叩き出し、そしてなにより楽しそうだ。
没頭力の高い人は没頭対象からとかく多くを学ぶ。そしてその学びを他処に生かすことができる。没頭は最高の教師なのだ。没頭を通して学ぶ人に、受験勉強を通して学んだ人は絶対に勝てない。
学習塾経営の現場にいる頃から没頭することの意義を説いてきた。決して「お子さんに没頭させなさい」といっているわけではなく、むしろ「お子さんが没頭したら止めるべきでない」といっているつもりだった。そんな中、「没頭するほど好きなことないんですけど」「うちの子すぐ飽きて何かに熱中したりハマったりしないんですよ」という声が多いことに驚いた。
そもそも没頭すること・ハマることは何か興味の対象がありそれを探求する一過程であって、没頭することを目的とするのは本末転倒だ。「何かに没頭したかったから陶芸をはじめました」。これはやはりおかしい。
人は本来、自らの興味に従い探求活動を行う生き物であると信じている。多くの人が幼い頃に何かに熱中しすぎて時間を忘れた経験があるはずだ。しかし、より良き納税者・労働者・社会構成員を輩出するための教育を長く受け、暗黙の常識が作り出す雰囲気による指導に晒されるうちに多くの人は「ハマり方」を忘れてしまう。
教師や親からの「あんたにできっこないんだからやめときなさいよ」「そんなの無意味だからやめたほうがいいわよ」「将来何の役に立つの?」という声であったり、生徒自身もその雰囲気に半ば洗脳され学びに効率を求めてしまう。しかし、こういった声や雰囲気を取り払うことで生徒の好奇心の導火線は自然着火する。
時間割も教師もない新しい学びの場
私たちISSJは2019年9月、東京・市ヶ谷にて高校生世代を対象とする新設高校「Manai Institute of Science and Technology(以下、マナイ)」を開設する。生徒に共通する時間割は存在しない。
生徒は自らが運営するサイエンスプロジェクトに没頭する。没頭を通して知識や方法論を学ぶこれまでになかった学びの場だ。
したがって生徒に一方的に知識を伝授する役割の教師はいない。教師の代わりに、生徒の研究をサポートし外部協力機関とつなぐなど、いわば“伴走”の役割を担うメンターがマナイには存在する。
また生徒は自らのプロジェクトの合間に、用意されるワークショップやレクチャー、実験プログラムを選択し受講する。必修授業はない。本当の知識とは、それが必要になった時、自分が「それを知りたい」と強く思った時に得る知識であるべきだという私の信念がある。
<マナイの方針>
・生徒は日々サイエンスプロジェクトを運営する
・プロジェクトの合間にワークショップやレクチャーを選択する
・教師はいない:プロジェクトに伴走するメンターが生徒をケアする
学びは人を自由にするための唯一の方法だと信じている。学ぶことで人は狭い世界の教育や風習、そして雰囲気がつくる固定観念から自由になり、自分の人生を生きることができる。
人が自由になるために、学びの方法をアップデートしたい。
それがこの教育機関(あえて学校と呼ばずに教育機関と名乗りたい)を作ろうと思った理由だ。皆が同じ場所で同じ時間に集まり、一方的な知識の伝達を受け、それを記憶し再現する。これを繰り返す学びでは人は自由になれないことを私たちは既に知っている。
没頭での学び、ハマることからの学びを一人でも多くの高校生に体験して欲しいと思う。一度体験したらもう元の世界には戻れないだろう。
次回以降、マナイにおいて、いかにして生徒が没頭できる環境をつくるのか。「新しいサイエンススクール」の特徴を紹介していきたい。
【プロフィール】野村竜一(のむら・りゅういち)
Manai Institute of Science and Technology代表
1976年東京都生まれ。東京大学卒。NHK、USEN、アクセンチュアを経て「旧態依然とした教育が人の学びを阻害している。学びをアップデートさせたい」との思いから起業。2019年秋、サイエンスに特化したインターナショナルスクール「Manai Institute of Science and Technology」を開校予定。「サイエンスを武器に世界中で夢をカタチにし、課題を解決できる」人物の輩出を目指す。論理的思考力養成の学習教室「ロジム」も経営。
【教育、もうやめませんか】は、サイエンスに特化したインターナショナルスクールの代表であり、経営コンサルタントの経歴をもつ野村竜一さんが、自身の理想の学校づくりや学習塾経営を通して培った経験を紹介し、新しい学びの形を提案する連載コラムです。毎月第2木曜日掲載。
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