昨年5月に第2子となる長男が生まれて始まった半年間の育休生活は、これから先も大事な場面で必ず思い出すであろう、特別で有意義な時間だった。コラムの最終回は私なりに育休を総括し、貴重な体験を少しでも読者の皆さんに役立てていただければと思う。(文・写真 大竹信生)
復帰後は同僚や他社の知り合い、妻の友人たちから感想を頂く機会があった。「最初は男性が長期育休を取ることに疑問があったけど、旦那さんと子供たちの関係を見ていると“これもいいなあ”って思えてきた」「男性目線だけでなく、女性の意見や気持ちもちゃんと書いてくれている」「うちの旦那にも読ませました」「いい会社ですね。私だったら『本当に帰ってきてくれるの?』って心配になっちゃう」「この連載、楽しく読んでいたからもっと続けてほしいなあ」などなど、非常に嬉しい言葉を頂戴した。私もまだまだ育児歴3年未満なので偉そうなことは言えないが、当コラムを読んでくださった皆さんにとって、私が記した一行や一言だけでも何かのきっかけになったり、お役に立ててもらえれば嬉しいと思って書いてきた。
長期育休でたくさんのメリット
いま改めて半年間の育休生活を振り返ると、長かったようで短かったというのが正直な感想だ。毎日のように朝から晩まで育児・家事に奮闘した。子供の体調がすぐれない日や夜泣きをした時は深夜から明け方まで、それこそ“24時間営業”の日々を送り、正直しんどい時もあったが、私にとってはそれらすべてが貴重な経験であり、総合的に見ればとても幸せな時間であった。いい時間は刹那に過ぎるということなのだろう。
つまり私の結論から言えば、もし事情が許せば、ずばり「育休は取るべし」だ。
私が長期育休を取得したメリットはことのほか多く、家族全員にとって様々な形で恩恵があった。その最たるものが妻だ。私がそばにいることで妻の負担軽減につながったのは言うに及ばず、それ以上に「いつも隣に夫がいる」という安心感は彼女にとって非常に心強い支えになったはずだ。誰だって不安があるときこそ頼れる人の存在が大きな精神的安定をもたらすことだろう。
育児に四六時中打ち込んでいたことで、母親の一日のサイクルを熟視することもできた。朝から晩まで子供に掛かりきりで過ごす大変さを理解できるのはもちろん、それが来る日も来る日も続くのだから、妻に対する感謝の気持ちも一層と深まる。私は長女が誕生した時は育休を取らなかったため、仕事で不在となる平日のサイクルはそれほど把握していなかったのだが、今回育休を取ることで、それまで知ることのなかった日々の苦労や偶発的なトラブルを自分自身で体験できたのは、育児の実態をより深く理解する上で極めて有意義だった。
次に、家族の絆が強くなった事も大きなメリットだった。第1子誕生からずっと子育てに専念している妻からは「育児に対する姿勢が日に日に良い方へ向かったし、小さなことで文句も言わなくなったよね」などと嬉しい言葉をもらえた。娘とも強い信頼関係を築くことができた。今でも「パパがいれば大丈夫」と二人だけでお出掛けするときも多いし、妻と私が別行動をとるケースでも、娘は私と一緒にいることを選んで甘えることもよくあるほどだ。
そして私自身も成長した。育児のスキルもそれなりに向上したし、何よりも自信がついた。オムツ替えや子供をお風呂にいれる事はお手の物だし、トラブルへの対応に落ち着きがあるからか、「お父さんなのに慣れていますね~」と驚かれることが割とよくあった。子供の行動パターンをつかんで先が読めるようになり、効率よく動けるようになると、相対して妻や子供の負担も軽減されるという効果がある。
多忙な毎日を過ごす中で「上手に手を抜く」ことも身につけた。例えばシワがあっても気にならないインナー類はたたまない(=時短)などだ。育休に入った当初は「頑張るんだ」と意気込み過ぎて空回りすることが多かったし、必要以上にタスクを抱え込んで限界値を超えてしまい、一人で機嫌が悪くなることも多かった。育児は毎日のように精力的な働きが求められるが、やる事すべてを完ぺきにこなそうとすると、やがてどこかで行き詰まってしまう。頑張りすぎてパンクしないよう、ときにはガス抜きも大事なのだ。そういえば、会社でうまく仕事をこなす人はいい意味で要領がよかったりするものだ。
コミュニケーションを大切に
もちろんすべてが順風満帆だったわけではない。私の至らない部分もあって妻が望むようなサポートができず、口論に発展することも多々あった。私は気の利かないタイプで、相手の気持ちを汲むことが苦手でもあるため、妻がしてほしいことに気がつかないことが何度もあったのだ。私も自身の欠点は自覚しているため、妻には何度も「何かあったら言葉ではっきりと言ってほしい」とお願いした。
育児は基本的に夫婦二人でやるものだからこそ、思っている事やパートナーにしてほしいことは遠慮せず言葉にすることが大事だと感じた。つまり、「コミュニケーション」だ。悩みや愚痴を聞いてあげればストレスの軽減にもつながる。よく考えれば至極当然のことではあるのだが、育休を取得した当初は不慣れな環境に切羽詰まっていたようで、会話不足によるケンカが絶えなかった。そのたびに、心の中で「こっちは育休を取ってあげたんだからもう少し感謝してくれよ」なんて不満が募ることもあった。どうせまた口論になるから妻と話したくないと、あえて口を閉ざす日もあった。しかし、コミュニケーションを積極的に取ることでこのような不毛な言い争いを回避したり、トラブルを迅速かつ容易に解決できるのだ。もっといえば、焦っているときや機嫌が悪い時こそ、言葉遣いに気を付けたり丁寧に接する気持ちが大事だと実感した。とはいえ、妻としては「言いづらい」「お願いしづらい」こともあるようで、ときにコミュニケーションを取ること自体の難しさも痛感した。
半年間の育休生活はまさに光陰矢の如しで、自分でも驚くほどあっという間に終わった。妻からは、半年間の思い出をまとめた2冊のアルバムをサプライズでプレゼントしてもらった。表紙には「パパ育休ありがとう」の題字も添えられていて、なんだか感慨深いものがあった。子供の成長も間近で見ることができたが、それが嬉しい反面、半年の間にサイズが合わなくなった子供服を見ると、「もうこの服ともバイバイかな」と少し寂しくもなった。何はともあれ、2人の子供が半年の育休期間を健康で安全に過ごせた事が一番嬉しかったし、ホッとした。
11月1日。半年ぶりに会社復帰した私にたくさんの上司や同僚から「おかえりなさい」と温かい言葉をかけてもらった。育休を取りやすい雰囲気を作ってくれた会社には感謝の気持ちでいっぱいだ。たくさんの友人や知人にも助けてもらい、気にかけてもらった。SankeiBizで連載コラムを執筆頂いているレーシングドライバーの木下隆之さんからは、奥さんで料理研究家である飛田和緒さんのレシピ本を頂いた。いろんな人から支えてもらい、「感謝」という言葉を強く意識した半年間でもあった。次は私が育休取得希望者をサポートする番だと思っている。もし同僚が悩んでいれば相談に乗り、育休申請に向けて背中を押し、不在の間は全力で業務をカバーするつもりだ。会社という大きな組織でこそ、助け合いの心が重要だと考えている。
育児はこれから先の方が長い
仕事には復帰したが、育児はこれから先もずっと続く。育休中は家事と育児をしながら自分一人の時間も確保するという二律背反の実現は非常に困難であったが、今後仕事に追われればワークライフバランスの舵取りはなおさら難しくなる。育児・家事・仕事をどれだけ上手に管理できるかは、私にとってこれから直面する課題であり大きなチャレンジだ。そんなときでも、今回育休を取得したことで学んだこと、例えばトラブルなどあらゆる可能性を先読みして複数の対策を講じるといったスキルを応用し、メリハリをつけ、要領よく効率的に仕事をこなすことで乗り切っていきたい。
夫が育休を取るか取らないかは各家庭で決めることだが、3回目のコラムでも記したように育休を取得する権利は誰にでもある。もしあなたが育休を取れる環境にあるのであれば、ぜひ勇気を出して長期育休を取得してほしいと思う。子供とずっと一緒にいられる時間なんて、自分から手を挙げて育休でも取らない限りなかなか作れないのだから。そして、あなたが得られるものはわが子との時間だけではない。育休を終えて職場に戻ったあなたは、仕事との向き合い方もきっと変わり、これからの時代に求められるビジネスパーソンとなれるはずだ。
最後に当コラムの執筆に賛成・協力してくれた妻と、素晴らしい時間を一緒に過ごしてくれた2人の子供に感謝したい。
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